富裕層の多くは老人ホームには入居しない
■転ホームの前に考えておくべきこと
転ホームには例外があります。それは、富裕層の場合は、転ホームは不要だということです。
みなさんは、こんな話を聞いたことはありませんか? 高級老人ホームの創業者に「あなたは、なぜ、老人ホーム事業を始めたのですか?」と聞くと、回答はおおむね2つになります。
1つ目は、自分の親を老人ホームに入れるために、いろいろな老人ホームを探したけれど、満足できる老人ホームがなかったため、自分で老人ホームをつくったという話、2つ目は、自分自身が入りたい老人ホームがないから自分でつくったという話です。
特に、自分が入りたいホームがない、という理由で老人ホーム事業に参入したケースでは、老人ホームに対する思い入れが強いため、理想的な老人ホームをつくってしまいます。しかし、この理想的な老人ホームは、多くの人にとっては、まったく現実的ではありません。
また、多くの富裕層は、老人ホームには入居しません。海外だけではなく日本でも、多くの本当の富裕層は、自宅に看護師や介護士を住み込ませ、親の介護看護に当たらせるのが普通です。もちろん、家屋に不便なことがあれば、自由に改修もします。数千万円の改修費など安いものなのでしょう。これが富裕層の「論」です。
したがって、自分が入居したい老人ホームをつくるという気持ちが、老人ホームの運営動機になっている場合、その老人ホームは高級老人ホームであるケースが多く、居室面積一つをとっても、平気で100平米とか200平米といった企画をします。
そして、老人ホームというよりも、億ションと言われている高級マンションに近いものが出来上がります。そして、次のようなセリフをお約束事のように決まって言います。
なぜ、このような老人ホームをつくったのですか?
「介護施設や病院みたいな老人ホームで、人生の最期を迎えることに抵抗があったからです。自宅と変わらない住環境の老人ホームで生活がしたい」
私に言わせれば、だったら老人ホームではなく、自宅で生活をすればよいではないですか? なぜ、老人ホームというカテゴリーにこだわる必要があるのでしょうか? ということなのですが……。この場合は、自分と同じような考えや悩みを抱えている富裕層がいるはずだ。だから、自分だけではなく、ほかの人にもこの商品を展開したかったと、彼は説明します。
さらに、自宅で要介護者の介護をやるということに対し、または、自宅で人が死んでいくことに対し、なんらかの違和感を持っているということもあるようです。
多くの日本人は、「病院では死にたくない」とか、「死ぬのは畳の上で」と言っていますが、今や人が死ぬところは病院である、という価値観が根づいているので、自宅で要介護状態から死までを一貫して過ごすことに対し、違和感を持っているようです。
したがって、住環境が普通の住宅とおおむね同じで、そこに介護看護サービスを付帯させるには、老人ホームというカテゴリーがひじょうに都合がよいということになります。もちろん、完全なる自宅で介護看護支援サービスを受けるよりも、はるかに経済的で合理的に行うことができます。
本当の「終の棲家」を獲得するということは、ごく一部の富裕層だけの話です。または、家族、一族、ともに良好な人間関係が構築できている一部の家族だけの話です。このことに早く気がつくべきです。今の多くの老人ホーム入居者は、富裕層ではありません。
今は、ごく普通の人が、さまざまな家族の事情で老人ホームを探し、そして入居しています。だから、これだけ多くの老人ホームが、日本社会に存在しているのです。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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