「安泰な老後生活」を送っていた父
内閣府『高齢社会白書』によると、令和4年時点で65歳以上の人のいる世帯は2,747万4,000世帯と、全体の50.6%を占めています。また65歳以上の一人暮らしをする人は男女ともに増加傾向にあり、65歳以上の人口のうち男性の15.0%、女性の22.1%が一人暮らしをしているということです。令和32年には男性26.1%、女性29.3%となると見込まれています。
そんな、今後も増え続ける見込みの「独居老人」。一人暮らしをしている高齢の親が「予期せぬ事態」に陥る可能性は、誰にとっても他人事ではありません。
田中裕也さん(仮名)は、65歳で定年退職し、その後は年金月額23万円で悠々自適な老後を過ごしていました。裕也さんは大手企業で長年勤め上げ、退職金もしっかりと受け取ったため、経済的な不安はほとんどなかったと言います。
趣味の園芸や旅行、友人との交流を楽しむなど、充実した日々を送っていました。特に庭いじりが好きで、季節ごとに美しい花を咲かせる庭は近所でも評判でした。
そんな父を誇りに思っていた長男の信一さん(仮名)は、自身も仕事に追われる日々を送っていました。半年ぶりに仕事が一段落し、久しぶりに実家を訪れることにします。父の元気な顔を見て、楽しい時間を過ごすことを楽しみにしていました。
実家で目にした「驚きの光景」
しかし実家の門をくぐった瞬間、信一さんは目を疑いました。庭は荒れ放題で、かつての美しい花々は姿を消し、雑草が生い茂っていました。家の中に入ると、さらに驚くことになります。リビングには整理整頓の跡がなく、生活感のない状態。家具も埃を被り、テーブルの上には食べかけの食事がそのまま置かれていました。
「なにかの間違いだろう」…信一さんは心の中で呟きました。父がこんな状況に陥るなんて想像もしていなかったことです。
父はどこにいるのだろうと家中を探しましたが、なかなか見つかりません。やっとのことで、寝室で横になっているのを見つけました。
父の顔を見てさらに驚いた信一さん。裕也さんは痩せこけ、目に力がなく、以前の活力あふれる姿とはまるで別人になっていました。信一さんが「父さん、大丈夫か?」と声をかけると、裕也さんはかすかな笑みを浮かべて「信一か、久しぶりだな」と答えました。
裕也さんは体調を崩し、病院に通う日々が続いていたのです。年金での生活は決して楽ではなく、医療費や介護サービスの費用がかさみ、次第に生活が困窮していったとのこと。特に、介護サービスの追加料金や医療費が予想外の出費となり、経済的な余裕が急速に失われていきました。