(※写真はイメージです/PIXTA)

毎日、朝8時になると、母親の面会に息子さんが老人ホームに来ます。面会時間はおよそ5分間。老人ホームの介護職員の多くは、家族の親の扱いを見て、自分たちがどう扱うべきなのかを決めているといいます。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で解説します。

介護職員は家族の親の扱いを見ている

原因は相手ではなく自分にある、ということです。もっと言うと、良いホームなのか、悪いホームなのかを判断する時に、人は、どうしても相手に原因があるとして、自身を正当化してしまいがちですが、常に、原因は自分にあると考えれば、良いホームに入居させるためには、自分自身が良い家族になることが早道だということがわかります。

 

多くの介護職員、看護職員にとっては、子世代が大切にしている親に対し、その親を大切にしないという理由はありません。したがって、自分の親を老人ホームで大切に扱ってほしいと考える子世代は、自分自身が親をどれだけ大切にしているのかを口ではなく、行動で示すべきなのです。このことに早く気がつくべきだと私は思います。

 

老人ホーム業界に身を置いていると、次のような会話をよく耳にします。それは「要介護3以上の生保はおいしいお客だ」という会話です。生保とは生活保護の略です。つまり、一定以上の要介護認定を取得している生活保護の高齢者は介護事業者にとって“いいお客だ”ということになります。その理由は、なぜだかわかりますか? 次のような介護事業者側の都合があるからです。

 

まず、生活保護の認定のある要介護高齢者は、原則、医療や介護の自己負担がありません。つまり、自己負担額のとりっぱぐれがない、ということです。けっして多くはありませんが、1割から2割の自己負担分を取りっぱぐれて収益が悪化する介護保険事業者もいます。

 

弱者である高齢者に対し、早く支払ってくださいという催促もしづらいから、というのが理由ですが、中には、死亡して口座が凍結されているため支払うことができないといった高齢者独特の事由もあります。しかし、生活保護者には、この心配がありません。

 

そして何よりも、生活保護者には、親身になって相談に乗る家族がいないというメリットがあります。勘違いしないでください。デメリットではなくメリットです。行政がその役割を果たしているのですが、家族と同じ気持ちで対応するのでは? と思う方もいると思います。

 

もちろん、中には熱心な福祉マインドを持っている人もいるとは思いますが、全員がそうではありません。24時間365日、子供と同じような温度で仕事ができている人は皆無と言ってもいいのではないでしょうか。したがって、生活保護受給者のメリットは、「うるさいことを言う家族がいない」ということになります。介護職員からすると気が楽です。

 

このことを考えてみても、家族が老人ホームに面会に行く場合、重要なことは、頻度ではなく、ホームで何をするのか、なのです。

 

誤解のないように言っておきますが、ホーム側に不本意な介護をされている場合でも、我慢をするべきだ、と言っているわけではありません。そのような場合は、むしろ、議論をしても無駄なので、早くほかのホームに転ホームしたほうが良いと思います。転ホームは私の持論です。

 

ここで私が言っている「論」は、家族とホームの職員とのかかわり方についてです。「付かず離れず」。親密すぎてもダメです。しかし、放置でもダメなのです。

 

一番良い例は、先ほど紹介した5分の面会に毎日欠かさず来る息子さんです。無言で自分の考えを職員に伝えています。職員も、無言の意思表示を理解し、その期待に応えようとします。この面会を、あえて打算的な考え方で評価するとするなら、きわめて入居者側に有利に働いている作戦だといっても過言ではありません。

 

なんとなく理解できたでしょうか? 老人ホームの介護職員の多くは、家族の親の扱いを見て、自分たちがどう扱うべきなのかを決めているのです。当然、建て前としては全入居者に対し平等に扱うことは言うまでもありませんが、「心」を持つ「人」がかかわっている以上、平等であるわけがありません。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

 

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※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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