あなたにオススメのセミナー
コスト削減が目的だったサプライチェーン
■コスト対策ではなく、不確実性の解消を
パンデミックの最も早い段階で、グローバルな小売りの世界で最初に寸断したのがサプライチェーンだった。一部の小売業者は注文が積み上がるばかりで、売りたくても売れない状況に陥った。メーカーへの発注をキャンセルしたり、メーカーへの支払いを拒否したりする動きも見られた。収益確保に欠かせない商品さえ手に入らない小売業者もあった。
こうした問題は、何らかの不具合によるものではなく、グローバルな小売業界全体がコスト最小化という自分たちの身勝手なニーズのためだけに構築したシステムの“仕様どおり”の結果になっただけである。
このような体制は変えねばならないと見ている1人が、ジョン・ソーベックだ。ソーベックは、ブランド各社向けにサステナブルで強靭なサプライチェーンシステムの構築を支援する企業、チェインジキャピタルの会長である。
ソーベックに言わせると、過去数百年の間、私たちはコスト削減を目標にサプライチェーン整備に突っ走ってきたのだという。この結果、長期的な需要予測、発注間隔の長期化、発注の大量化、世界中で繰り広げられる安価な労働力探しへの依存が深まるばかりだ。だから小売業者は、コスト競争力を高めるために、舞台裏よりも売り場や商品在庫に資本を投じる一方になる。
だが、「この考え方には問題がある」とソーベックは言う。そんなやり方では、バックエンドとなる舞台裏のサプライチェーンにどうしてもリスクが生じる。そこにパンデミックが襲いかかったため、そのリスクが一気に噴出し、大きなしっぺ返しを食ったのである。
ソーベックの指摘からこんなことも言える。パンデミックの脅威はもちろん、自然災害や政治不安、社会不安が積もり積もって世界が先行き不透明になっていることを考えると、ブランド各社の資本のリスクはますます高まっていくのではないか。おまけに、さまざまな影響や膨大な情報にさらされている消費者は、ますます移り気になっていて、消費者の嗜好を見極めることはさらに難しくなる。その結果、値下げ幅が大きくなり、多くの場合、売れ残った衣料などの商品の大量廃棄につながっている。
新型コロナウイルスが襲いかかる前でさえ、特にファッション系のサプライチェーンはかなり危険な賭けに打って出ていた。将来のファッショントレンドを予測し、何カ月も前から大量の事前発注を実施するため、供給の中断や、購入客からの返品、最終的な値下げとマージンへの打撃が発生するリスクは高い。
ソーベックによれば、スペインのファストファッションチェーン、ザラ(Zara)など一部の小売業者の間で、これまでのやり方を見直す動きが見られるという。
「ハイリスクのビジネスを見直して、リスク解消に打って出たのです。発注周期を早めて店頭で紹介するファッションを多頻度で変化させていくことで、商品の回転率を上げ、顧客の来店頻度を高めています。もちろん、マージンが増えて、値下げは少なくなります」
現実的な意味で、資本投資のリスクを抑えるためには、少しだけ手をかけて、何かあっても耐えられる強靭なサプライチェーンを構築しなければならないとソーベックは言う。
・現行のサプライチェーンが掲げているゴールを再検討し、現行システムを強化するには、どのようなゴールや指標が必要かを見極める。
・パートナーと協力し、低コストのみを追いかける行動を断ち切り、サプライチェーンに参加する全パートナーとともに、スピードと柔軟性と強靭性(回復力)を高める行動を推進する。
・テクノロジーを駆使して、サプライチェーンの流れに沿って、全パートナー間でリアルタイムのデータフロー、コミュニケーション、情報共有が可能な仕組みを構築する。
長いリードタイム、安価な労働力、馬鹿げた商品廃棄の日々には、別れを告げなければならない。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント
↓コチラも読まれています
ハーバード大学が運用で大成功!「オルタナティブ投資」は何が凄いのか
富裕層向け「J-ARC」新築RC造マンションが高い資産価値を維持する理由