(※写真はイメージです/PIXTA)

都市部での生活を離れ、自然豊かな地方で静かに暮らしたい――そんな「田舎暮らし」への憧れは、リタイア世代の間で根強く存在します。実際、移住相談窓口を通じた問い合わせも年々増加傾向にありますが、生活インフラや人間関係、医療アクセスの違いなどに戸惑い、「思い描いていた暮らし」とのギャップに悩む人も少なくありません。

「老後は田舎でのんびり」…両親が選んだ第2の人生

「両親は“やっと念願の暮らしができる”と、嬉しそうに話していました」

 

そう語るのは、都内で働く会社員・石川由紀さん(仮名・34歳)。父・雅人さん(65歳)と母・良子さん(64歳)は、ともに退職を迎えたのを機に、地方の中古住宅を購入し、山間部に移住しました。

 

「年金は2人合わせて月22万円ほど。“畑でもやりながら静かに暮らすよ”と、母は言っていました」

 

当初は、近隣住民から野菜の苗をもらったり、地域の集まりにも顔を出したりと、楽しそうに暮らしていたそうです。

 

由紀さんが両親の元を訪れたのは、移住からちょうど半年が経った頃。久しぶりに訪れた実家で、彼女は思わず言葉を失ったといいます。

 

「家の中が妙に暗くて。母は少し痩せていて、父はほとんど話さなくなっていました。なんだか、前より“年を取った”感じがして…」

 

聞けば、冬場に体調を崩しても近くに病院がなく、雪でバスも止まり、誰にも助けを呼べなかったことがあったというのです。

 

「あの日以来、“自分たちはここで倒れても誰も気づかない”って思うようになった、と母が言いました。さすがに、胸が痛みました」

 

移住前は近所にドラッグストアやスーパーもあり、何かあればタクシーですぐに病院へ行けた生活。一方で、移住先は最寄りの診療所まで車で30分。日用品の買い出しは週1回、町のボランティアバスに乗るしかない状況でした。

 

「“田舎の人は親切”っていうのは、観光客としての距離感だったのかもしれませんね…」と由紀さんは語ります。

 

国土交通省『高齢者の住宅と生活環境に関する調査(2023年)』によると、65歳以上の高齢者が現在の居住地域で「不便」と感じている項目としては、「日常の買い物」(23.9%)や「通院」(23.8%)に次いで、「交通機関の使いづらさ」(21.5%)が挙げられています。こうした生活インフラへの不満は、日常の外出頻度や行動範囲を制限し、結果として孤立感の増大や健康不安につながるケースも少なくありません。

 

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