「勝手にしろって言われたから…」
「はじめて父の部屋に行ったとき、絶句しました。冷蔵庫の中は空っぽで、唯一残っていたのがカビの生えた食パン。あんなに几帳面だった人が…と衝撃でした」
そう話すのは、都内在住の会社員・佐藤真美さん(仮名・47歳)。都内で夫と子ども2人と暮らす彼女は、1年前に父・隆さん(仮名・75歳)の一人暮らしを手伝うため、久しぶりに実家を訪れました。
母を10年前に亡くして以来、父はずっと郊外の団地で一人暮らしを続けてきたといいます。
「もともと頑固で、人の世話になるのが嫌いな人なんです。母が亡くなったときも『自分のことは自分でやる』の一点張りでした。私は何度も『一緒に住もう』って言ったけど、いつも『俺の人生だ、勝手にさせてくれ』と返されて…」
隆さんの年金は月17万円ほど。高齢者向けの支援制度を活用すれば、宅食サービスや見守りサービスの導入も可能でしたが、「そんなものには頼らない」と一蹴されたといいます。
「父の中では、“人に迷惑をかけずに死ねればそれでいい”という美学があるんでしょうね。でも現実には、家の中は散らかり放題、食事も満足にとれていない。正直、栄養失調や熱中症で倒れてもおかしくない状況でした」
「父は、『寂しいよ。でも、それが自分の選んだ道だから』と言っていました」
そう静かに語る真美さんの目には、複雑な思いがにじみます。
「人に迷惑をかけたくない」「長生きしたいわけじゃない」「自分で責任を持って生きる」――父が口癖のように話していた言葉だといいます。
「本当は、弱音もあるんだと思うんです。でもそれを見せるのは“情けないこと”だと思っている。たぶん、昭和の男って、そういう世代なのかなって……」
