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政府以上に信頼を寄せるブランドの価値
■ブランドの道徳観が問われる時代に
実際、グローバルなコミュニティとして見ると、私たちの政府に対する信頼は坂を転げ落ちるように低下している。2019年にピュー研究所が実施した調査によれば、アメリカ人のうち、政府は「正しいことをする」と信頼を寄せる回答はわずか17%にとどまった。1964年には、同じ回答は77%を占めていた。同様に、イギリスで3万3000人以上を対象にした調査では、3分の2以上が「主要政党のいずれも国民の声を十分に代弁していない」と答えている。
さらに、私たちの不安に拍車をかける問題もある。私たちは、礼節の心や共同体意識を守るために昔から政府機関を頼りにしてきたが、こうした政府機関自体、分裂して一枚岩になれず、派閥争いの様相を呈しているため、かえってイデオロギー対立を深め、溝を広げていることも少なくない。アメリカの消費者を対象とした最近の調査によれば、「社会の分断に大きく加担している張本人として、政府や政治指導者を挙げた消費者は72%に上った」。パンデミックでこの傾向はますます強まると思われる。
世界の多くの地域で、既成宗教の魅力も薄れている。2018年にセントメアリーズ大学(ロンドン)がヨーロッパ全体で実施した調査によると、「宗教とのつながりはない」との回答は若い世代の間で急増しており、たとえばスウェーデンでは16~29歳の75%が宗教とのつながりは一切ないとしている。
また、同じ調査で、スペイン、ドイツ、イギリス、ベルギーの同じ年代の若者の大多数が「宗教上の何らかの礼拝に出席したことがない」と回答している。北アメリカでも「自分がキリスト教徒だ」と答えた割合は同様に低下している一方、「無神論者」「神の存在について何とも言えない」「特になし」との回答は増加している。
国家にせよ、教会にせよ、伝統的に人々が拠り所としてきた社会制度・機関に対して、信頼が低下していることがわかる。一方、本来、人間には、帰属意識や目的意識、生きることの意味を問う欲求があり、その思いの行き場がない。「自分の道徳観に合うコミュニティの一員でありたい」という思いは、人間の奥深くに刻み込まれている。それだけに、どれほど社会的、政治的に不信感を抱いていようと、その思いを捨て去るわけにはいかないのである。「何かを信じて、あるいは誰かを信じて生きたい」と思う動物なのだ。
その結果として生じる社会的な空白は、気概のあるブランドなら埋めることも可能だ。2018年にエデルマンが世界8カ国の消費者8000人を対象に実施した調査では、商品購入にあたって、「社会的問題や政治的問題に対するブランドの姿勢を見て、購入を判断する」との回答がほぼ3分の2を占めた。
さらに注目すべきは、「社会問題の解決に関して、ブランド各社のほうが政府よりもできることが多い」と信じている消費者は53%に上った。こうした声にじっくり耳を傾け、その意味を熟慮すべきだろう。現在、私たちの大多数は、「政府や宗教といった伝統的な社会制度・機関よりも、むしろブランドのほうが世界を変えてくれる」と信頼を寄せているのである。
ブランド各社にとっては、千載一遇の素晴らしいチャンスでもある。単にランニングクラブやヨガクラスの主催に甘んじることなく、いわばグローバルな“ブランド国家”となって、政府や宗教では埋めることができていない価値観や意味、帰属意識の空白を埋める可能性があるのだ。
これが業界として名誉挽回を図るチャンスだとすれば、まずは舞台裏から見直して、新たなビジネスを構築していかなければならない。