(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍前からアメリカのショッピングモールの4分の1は閉鎖に追い込まれるとその危機が叫ばれていました。コロナを経て、その危機はさらに大きく、金融機関を巻き込むといわれています。その危機とは何でしょうか。ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。

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    もう「ショッピングモール」には人は戻らない

    CNBCのインタビューで、ジャン・ニッフェンが「ショッピングモール全体のうち、3分の1は思ったよりもかなり早い段階で消えゆく見通しだ」と語った。

     

    どのくらい早い段階なのか。ニッフェンによれば、予測より10年も早まるという。学者先生がそっくりかえって「この世の終わりだ」と言い放っているのとはわけが違う。実は、小売業界で何十年も過ごしてきた元百貨店重役である。ショッピングモールが置かれた状況について悲観的な見方をしているのは、ニッフェンだけではない。

     

    すでに2017年の時点で、クレディ・スイスは、「アメリカのショッピングモールの25%が、早ければ2022年に閉鎖に追い込まれる」と予測している。しかもパンデミック前の予測である。パンデミック後の予測はさらに踏み込んだ内容となり、被害規模は当初予測の2倍になりそうだという。

     

    現在、業界では、自分たちがまったく未知の領域にいることに気づいている。依然としてパンデミックに翻弄され続けているショッピングモール関係者は、壊滅的な被害をもたらしかねない内部崩壊の脅威と背中合わせの状態にあり、金融市場への影響は2021年まで続く見通しだ。

     

    ■当面モール頼みの経営はできない

     

    2020年5月の『ウォール・ストリートジャーナル』紙によれば、5月1週目にジョージア州やテキサス州など7州でショッピングモールの営業再開のサンプリング調査を実施したところ、客足が前年比で平均83%減、つまり前年の2割にも満たなかった。また、7月にアメリカで実施された消費者調査によると、ショッピングモールに出かけることが「危険だと思う」または「非常に危険だと思う」との回答は32%に上った。

     

    多くの高級モールのなかでも揺るぎない地位を築いている老舗のノードストロームでさえ、モール経営から手を引く意向だ。同社CEOのエリック・ノードストロームによれば、同社はショッピングモール頼みの経営からの脱却を図るという。同社のショッピングモール事業は売り上げの36%を占めている。

     

    ショッピングモールは、消費者が安全を実感するまで、通常営業への完全復帰は難しい。有効なワクチンが登場したとしても、配布作業が複雑になるため、消費者が安心感を取り戻すまでには、しばらく時間がかかりそうだ。

     

    ■テナント離れが止まらない商業不動産

     

    ショッピングモールの約60%が中核テナントとして百貨店を入れている点も、問題を余計に悪化させている。というのも、グリーンストリートアドバイザーズのレポートによれば、この中核テナントで入っている百貨店の50%が1年以内に閉店の見込みなのだ。

     

    当然、賃料収入がなくなれば、運営会社やオーナーの収入が圧迫され、ただでさえ疲弊しているショッピングモールにとっては、大きな痛手となる。たとえば、2020年9月に『ウォール・ストリートジャーナル』紙は、有力不動産投資会社スターウッドキャピタルグループが「最近の債務不履行でモール7カ所の支配権を失い、7年前に16億ドルで取得した不動産を手放すことになった」と伝えている。

     

    ショッピングモール業界が、テナントの債務不履行や変化の激しい資金市場への対応を迫られるなか、こうした債務不履行や支配権喪失は、いつどこで発生しても不思議ではない。

     

    次ページ悪夢再び?商業用不動産ローンは大丈夫か

    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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