「弟は“俺は働かなくていい”って本気で思っている節がある」
千葉県に暮らす宮野美佐子さん(仮名・60歳)。金融機関を早期退職し、現在は嘱託社員として週3日の勤務を続けています。都内の企業で働く姉のもとに、54歳の弟・昭彦さん(仮名)が戻ってきたのは、20年前のことでした。
「当時は、ちょっと疲れているだけだからって。私も“しばらくならいいか”と軽く考えていたんです。でも、気づけばもう20年近く…」
昭彦さんは30代半ばで仕事を辞めた後、ほとんど外出しなくなり、就労支援も断ってきたといいます。自室にこもりがちで、生活リズムも不安定。医療や福祉との接点もほとんどないまま、月日だけが過ぎていきました。
「弟は“俺は働かなくていい”って本気で思っている節がある。私の老後資金が目に見えて減っていくのに、何の危機感もないんです」
内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、40~64歳の「中高年ひきこもり」は全国で約72万人にのぼると推計されます。同調査では、ひきこもりの理由として「退職後に自信を失った」「人間関係に不安がある」などが挙げられ、親やきょうだいによる生活面・精神面の支援に依存するケースが少なくないことも指摘されています。
こうした家族内の問題は、いわゆる「8050問題」として注目されており、親が80代、子が50代になっても社会的孤立が解消されないことから、自治体による支援ネットワークの強化が急務です。
しかし実際には、「親亡き後」のリスクだけでなく、“きょうだい”が介護や生活費の負担を引き継ぐ事例も増えつつあり、支える側の心身にも深刻な負担が及んでいます。
美佐子さんの貯金は現在約2,300万円。老後を見据え、年金と合わせて「堅実に暮らせばやっていける」と思っていました。
「一人で暮らすなら、まあ大丈夫。だけど弟がいると、食費・光熱費はもちろん、医療費や突発的な出費も全部こっち持ちになる。“二人分の老後”なんて、背負えないですよ」
昭彦さんは、生活費を入れることもなく、親の遺産もほとんど使い果たしていたといいます。
「最初のうちは“お姉ちゃんに申し訳ない”って態度だったけど、今じゃそれすらない。“将来どうするの”って聞いても、『考えてない』の一点張り。私の人生をなんだと思っているんでしょうね」
