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父親の遺産相続をめぐり、親族間で激しい対立
今回の相談者は、50代会社員の鈴木さんです。鈴木さんの父親は15年前に亡くなり、そして数ヵ月前に母親も亡くなり、相続手続きをすることになりましたが、そこで起きたトラブルについてアドバイスがほしいと、筆者の元を訪れました。
母親の相続人は、長女である姉と、長男の鈴木さん、二女である妹の3人なのですが、父親が亡くなった15年前、父親の店を継ぐ姉が、母親と鈴木さん、妹を相手に調停を申し立てたことから、ほとんど絶縁状態となっています。
母親は姉家族と暮らしていた実家を出て、妹夫婦が自宅に引き取り、面倒を見ていました。
父親は突然亡くなったこともあり、遺言書を残さなかったため、家族で分割協議をしました。しかし、姉の夫である義兄が割り込んで強い主張を繰り返し、話がまとまりませんでした。
父親がはじめた店は姉が継いでおり、実質義兄が取り仕切っています。義兄は自分の貢献度が高いと言い張り、自宅をはじめとする資産を姉に相続させるべきと言って譲りません。姉は義兄の言いなり状態です。
また義兄と姉は、鈴木さんの母親が父親の財産を浪費し、大きく減らしたと主張しています。そのため、商売を続けるのが大変になったとして、預貯金の分割にも難色を示しました。
鈴木さんの母親は、義理の息子とその言いなりになる長女に愛想をつかして実家を離れ、結局、義兄の主張通りの遺産分割となってしまいました。
「お母さんの財産はマイナス」と、姉夫婦が…
今度は母親が亡くなり、再び相続手続きが必要になりました。鈴木さんは父親の相続では何ももらわなかったので、母親のときには多少なりとも相続できればと考えていました。
ところが義兄と姉の説明によると、母親には父親の代からの借入の連帯保証が残っているため、母親の財産はマイナスだというのです。緊迫したやり取りがありましたが、結局、鈴木さんと妹は相続放棄することになりました。
しかしその直後、連帯保証をしていた借入はすでに返済が済んでいて、母親の財産は預金が約1,500万円、有価証券が約3,000万円の、約4,500万円あることが判明したのです。
何かできることはないかというのが、鈴木さんの相談内容でした。
父の相続で苦労した母が、遺言書を残せなかった理由
父親の相続で大変な思いをしたにも関わらず、母親は遺言書を残しませんでした。認知症が進み、作れない状態だったのです。
また、姉の説明によって鈴木さんと妹が相続放棄をしたのに、当の姉は放棄の手続きはしていません。財産の取り分を増やしたいということで故意に間違った説明をしたとも受け取れます。
母親の財産がプラスであれば、鈴木さんや妹にも財産を受け取る権利があります。そして、姉と妹は母親の一件から絶縁状態にありますが、鈴木さんはかろうじて姉とコンタクトが取れる関係です。
鈴木さんが相続放棄して手を引けば、父親のときのように、姉と妹で調停を始めてしまうことが想定されます。
「相続放棄の撤回」の手続きを取る
そうした争いを避けるために、筆者は鈴木さんが間に入ることで、適切な遺産分割協議をしたほうがいいとアドバイスしました。
そのためには相続人の立場でいたほうが、都合がいいわけです。
そこで、「相続放棄の撤回」をするようにアドバイスしました。相続放棄は原則として撤回が認められていませんが、今回のように姉に嘘をつかれたということであれば「相続放棄の撤回」が認められる可能性があると考えられます。そして、家庭裁判所にその事情を話して相談するようにアドバイスもしました。相続人としての立場を復活し、姉と妹に争いを起こさせないようにすることが、鈴木さんの役割だと言えます。
相続放棄は相続発生後3ヵ月以内とされていますが、その間に財産の内容を確認して判断しなければなりません。慌てて相続放棄する必要があるのか、慎重に確認しましょう。その場の勢いで決定するのではなく、詳細を確認してからでも遅くはありません。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
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曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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