(※写真はイメージです/PIXTA)

少子高齢化の進展で、かつては大いに活用した自宅・収益物件が空家状態となり、そのまま朽ちてしまう事例があとを絶ちません。国も事態を重く見ており、近年では税率の変更等で所有者に対策を急がせる動きを見せています。資産価値の毀損を防ぎ、次世代が有効活用するにはどんな方法があるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

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老朽化し、空家となった実家とアパートに不安

今回の相談者は、40代の村上さんです。村上さんは2人姉妹の二女で、会社を経営する実業家です。大学卒業後、早々に実家から独立し、いまも独身で仕事に打ち込んでいます。姉は結婚して他県へ嫁ぎ、夫と2人の子どもと暮らしています。

 

村上さんの両親は、娘たちが独立したあとずっと2人で暮らしていましたが、母親は4年前に他界し、80代の父親は、現在介護施設で生活をしています。

 

村上さんの父親は繊維関係の工場を営んできました。高齢となり廃業しましたが、家には仕事の名残の反物などが山積みされています。

 

自宅は100坪あり、半分に学生向けのアパートを建て、母親が管理をしてきました。アパートは寮のような作りで、共有スペースに食堂があります。母親は学生たちの夕食の面倒を見ていたため、アパートは大人気で、11室のほとんどが満室で稼働していました。

 

ところが、母親は脳梗塞で急逝。売りだった夕食の用意ができないこと、築35年で老朽化してきたことなどから、現在は入居者を入れていません。

傷んだ空家を放置すれば、大変なことに…対応策は?

昨年、高齢の父親ががんだと判明しました。村上さんは今後の相続が気がかりで、姉と一緒に財産を確認しました。

 

詳細を見ると、自宅は約1500万円、預金は約1000万円で、相続税の基礎控除4200万円以内に収まり、相続税はかかりません。

 

しかし問題は、空家となっている自宅とアパートです。

 

父親は、村上さんと姉が好きなようにすればいいと言っています。村上さんは、60代で仕事をリタイアしたあと、実家に戻るのもいいと思っています。しかし、目安の年齢まで10年以上あるため、その間をどうするか考えなければなりません。

 

実家を残す場合、父親が施設から戻れないのであれば、荷物を整理してリフォームし、賃貸するのが方法のひとつです。しかし、リフォーム代がかなりかかるうえ、快適な間取りには仕上がらないかもしれません。そうなると、期待する賃料にはならない可能性もあります。

 

もうひとつは、賃貸併用住宅に建て直すという方法です。リタイアするまで自宅部分も含めて賃貸に出しておけば、ローン返済の負担も軽くなります。

 

賃貸住宅には向かない立地なのであれば、無理せずに自宅だけ建て直して、リタイアするまで貸しておく、といった方法もあります。

 

いずれにしろ、老朽化した空家のまま維持するには不安があり、固定資産税や維持費がかかります。筆者は、自分が住まないなら貸しておくことをアドバイスしました。

 

村上さんは、相続税がかからないことに安堵したようすでした。そして、「自宅をどのように維持していくか、父親と姉と話し合って決めたいと思います」と、明るい表情で筆者の事務所を後にしました。

 

近年では、空家はもちろん、自宅不動産の老朽化に頭を悩ませる方が増えています。たとえ相続税がかからなくても、不動産にはいろいろな課題がつきものです。

 

その場しのぎの対応をしたり、問題を先延ばしにしたりすることなく、しっかり向き合って対策をすることが、結局は金銭的にも精神的にも、最も負担のない結果となるのです。将来的な展望を考えながら、不動産の専門家のアドバイスやサポートを受けるのがお勧めです。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

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曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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