(※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『ロボット/AIニューズレター(2022/4/15号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

(8)NFT

デジタル資産を構成するデータは無体物であり、土地や自動車といった有体物とは異なった性質を持っています。データは、無体物であり、排他的に支配することはできないため、データには、排他的支配権を内容とする所有権という概念は成立しません。「データの所有権」という言葉を目にすることもありますが、それは所有権という言葉を間違って使っているものです。

 

デジタル資産については、最近、ブロックチェーンを利用したNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)が登場し話題を呼んでいます。

 

NFTについては、クリスティーズでBeepleのNFTアート作品「Evertdays = The First 5000 days」が約75億円で落札されることなどが話題となるなどして、注目を集めました。現在、多くのアーティストがNFT作品を売り出しており、NFTがブームになっています。

 

NFTにも、野球カードのようなトレーディングカードのNFT、デジタルアートを表章したNFT、ゲーム用のNFT、メタバースの土地をNFTにしたものなど様々なものがあり、その特徴は異なっています。

 

NFTについては、①唯一無二のデジタル所有権、②改ざん不可能※6、③二次流通時に作者に利益の還元が可能と言われることがありますが、データに所有権がないことは前述の通りですし、二次流通時に作者に利益を還元できるか否かは流通するプラットフォームの仕様次第ですので、上記①〜③のうち正しいのは②の改ざん不可能という点だけです。

 

※6 正確には改ざんが著しく困難であるというものであり、51%攻撃などにより改ざんすることは可能です。

 

もっとも、NFTでは、①データとその保有者との紐づけ、②データの唯一無二性の証明、③改ざんが不可能といった、従来から異なったデジタル資産の取り扱いが可能となったことから、デジタル資産の取扱いについて新たな可能性を切り拓くものであり、今後どのように発展するかが注目されます。以下、NFTアートを念頭にNFTの知的財産法上の問題について解説します。

 

(i)NFTとコンテンツとの関係

 

NFTはブロックチェーンにより構成されていますが、例えば、NFTアートでは、NFTアートの画像データ・音楽データといったコンテンツは、ブロックチェーン内には記載されておらず、ブロックチェーンに記載されているのは、画像データ・音楽データが保存されているURLなどのメタデータにすぎないのが一般的です。なぜなら大量のデータをブロックチェーンに記録すると、その取引の承認に必要な手数料(ガス代)が高額になってしまうからです。

 

このように、NFTのコンテンツは、ブロックチェーン外にあることから、改ざんや消滅するリスクがあります(分散型ファイルシステムを利用することでそのようなリスクを低減する方法はあります)。

 

(ii)NFTと著作権の関係

 

あるアーティストが創作したアートをNFT化して販売した場合、そのアートの著作権は購入者には当然には移転せずに、著作者であるアーティストに帰属したままです。そのため、アーティストは、そのアートの著作権を自由に処分することができます。つまり、NFTの帰属と著作権の帰属は別々のものであり、連動していません。

 

NFTアートの購入者は、NFTを購入している以上、アーティストとライセンス契約を締結していないとしても、当事者の合理的な意思解釈としては、アーティストは、NFT購入者に対して、アートの画像をネットで公開したり(公衆送信)、サーバに保存する(複製)こと許諾していると解することができるケースが多いでしょうが、改変できるか否かについてはグレーであり、そうである以上、NFTの購入者は購入したNFTアートを基本的には改変できないという前提で考える必要があります。

 

(iii)NFTの留意点

 

NFTは、一定の金銭・暗号通貨と引き換えに取引される経済的価値を有するものも多いですが、以上で述べたNFTの特徴からは、以下のような問題が起こる可能性が指摘できます。

 

①アートを創作していない無権限者が、勝手に作品をNFT化する。

 

あるアートを誰かが無断でNFT化することは技術的には可能です。しかし、アートの画像が保存されているストレージのURLをNFT化するだけであれば、URLは著作物でないため、それを利用しても著作権侵害になりません。もっとも、多くの場合には、NFTとして販売する際に、そのアートの画像を利用することになると考えられるので、その点を捉えて著作権侵害とすることはできるかもしれません。

 

しかし、無断でNFT化すること自体を簡単には禁止できないことには問題があります。購入者としては、このような無権限NFTを購入してしまうリスクがあるため、NFTの出所が信頼できる仕組みの構築が求められていると言えるでしょう。

 

②NFTを販売したアーティストが、同一・類似の作品を多数NFT化する。

 

アーティストがNFTを販売した場合、そのアートの著作権は購入者には当然には移転せずに、アーティストに帰属することになります。したがって、アーティストは、契約で禁止されてない限り、自己の著作物をいくらでも利用できます。

 

また、アーティストが既にNFT化して販売したアートと同一・類似の作品を多数NFT化して販売することも、契約で禁止されていない限り、可能です。

 

③NFTを販売したアーティストが著作権を第三者に譲渡する。

 

アーティストは、NFTを販売した後であっても、自らのアートの著作権を第三者に譲渡できます。その場合、著作権を譲り受けた者が、NFTの保有者に対して、著作権に基づいてアートの利用の禁止を求めてくる可能性があります。

 

この点、日本の著作権法63条の2の規定により、著作物の利用権を有する者は、著作権を取得した者や第三者に対して利用権を主張できるという規定があるので、この規定に基づいて、著作物を利用できることになります(当然対抗制度)。

 

④NFTを販売したアーティストが著作権のライセンス条件を争う。

 

アーティストとNFT購入者との間にライセンス契約が存在しない場合、アーティストやアーティストから著作権を譲り受けた者がNFT購入者によるNFTアートの利用方法についてクレームをつけてくる可能性があります。契約がないと、NFT購入者が、そのクレームを撥ねつけるのは容易ではありません。

 

このようなことを考えると、NFTの購入者がNFTアートなどのコンテンツに対して保有している権利は、基本的にかなり弱いものであると言えます。購入者が自らの権利を守るためには、NFTの販売者との間できちんと契約をするなどの対策をしておくことが重要です。また、NFTの購入者の権利が適正に保護されるようにルールの整備がなされることが望まれます。

 

他方、NFTを作成するアーティストの観点からも、NFTは、二次流通における収益をアーティストに還元する仕組みを設けることもでき、アートに対する利益を確保するものとしての役割があり、その適切な発展は望ましいものと言えます。また、無権限者によるNFTの発行や詐欺行為はアーティストにも損害を与えるものであり、この点からも、ルール整備が望まれます。

 

(9)まとめ

メタバースでは、仮想空間において商品・サービスが利用されるため、リアルの商品を前提とした知的財産権については、仮想空間において当然には及ぼすことはできない点に留意が必要です。このように、現在は、法制度において、リアルとバーチャルの間に垣根があります。メタバースの時代には、リアルとバーチャルの間に垣根のない法制度となることが理想的であり、垣根をなくすようなルール形成が望ましいと言えます。

 

また、NFTについては、NFTの保有者はコンテンツについての著作権などの知的財産権を当然には有していないことに留意が必要です。

 

なお、続きは「メタバースにおける法律と論点(下)」に掲載します。

 

 

福岡 真之介
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

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福岡真之介

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