(※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひが発行する『N&Aニューズレター(2026年2月27日号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひまたは当事務所のクライアントの見解ではありません。

フィリピンにおける贈収賄規制の概要及び政府機関とのやり取りに内在するリスクについて

執筆者:井浪 敏史、ミシェル・マリエ・F・ヴィラリカ 

 

1.はじめに

フィリピンは東南アジアで最大級の経済規模を有する国の1つであり、その大きな国内市場、若い労働力及び外国人投資家との強いつながりにより、日本及びその他フィリピン外の多国籍企業にとって重要な市場となっています。

 

しかし、贈収賄及び汚職のリスクは依然として重大な懸念材料として存在します。Transparency Internationalが毎年公表しているCorruption Perceptions Index(腐敗認識指数)の2025年版において、フィリピンは182か国中120位に位置付けられており、2024年版の114位から順位を落としています。

 

以下では、フィリピンにおける贈収賄規制の概要、及び政府機関における最近の制度改革の例に象徴されるような政府機関との関わりに内在するリスクについてご紹介します。

 

2.フィリピンにおける贈収賄規制の枠組み

フィリピンにおいて贈収賄は複数の法律に基づき処罰され、包括的な贈収賄規制法は存在しません。一般に、以下の贈収賄防止法のいずれかで処罰対象となり得ます。

 

a.Revised Penal Code(以下「RPC」といいます。):法律第3815号

 

b.Anti-Graft and Corrupt Practices Act(以下「AGCPA」といいます。):共和国法第3019号(改正版)

 

c.Act Punishing the Receiving and Giving of Gifts for Public Officers and Employees(以下「PD46」といいます。):大統領令第46号

 

d.Code of Conduct and Ethical Standards for Public Officials and Employees(以下「RA6713」といいます。):共和国法第6713号(改正版)

 

しかし、フィリピン法では、商業贈収賄すなわち民間部門における贈収賄や外国公務員に係る贈収賄に対して直接罰則は科されず、贈収賄の禁止はフィリピンの公務員への贈収賄にのみ適用されます。

 

公務員

 

各贈収賄規制法における公務員の定義は異なりますが、いずれも役職又は階級に関係なく、フィリピン政府の公務を遂行するあらゆる個人を対象としています。

 

•    RPCに基づく「公務員」とは、法律の直接の規定、普通選挙又は権限を有する当局による任命に基づき、フィリピン諸島の政府における公的職務の遂行に参加する者又は当該政府若しくはそのいずれかの部門で職員として(代理人であるか下級官僚であるかを問わず、いかなる階級又は職種を含む)公務を遂行する者を指す。

 

•    AGCPAに基づく「公務員」とは、選出及び任命された公務員及び職員(常勤・臨時職であるか、階級職・非階級職・免除職であるかを問わない)を含み、少額であっても政府から報酬を受ける者を指す。

 

•    RA6713に基づく「公務員」とは、AGCPAに基づく前記の定義を含むが、キャリア官僚又はノンキャリア官僚であるかを問わず、軍人及び警察官(報酬の有無及びその金額を問わない)を含む。

 

•    「政府」とは、中央政府、地方自治体、government-owned and government-controlled corporations(政府所有及び政府管理下の企業)(以下「GOCC」といいます。)及びフィリピン共和国のその他の全ての子会社、下部機関又は機関並びにその支店を含む(AGCPA、RA6713)。例えば、フィリピンのGOCCには、Philippine Amusement and Gaming Corporation、Philippine National Railways、Tourism Infrastructure & Enterprise Zone Authority、Philippine Health Insurance Corporationが含まれる。

 

禁止行為及び罰則

 

a.RPC

 RPCでは、直接贈収賄及び間接贈収賄に罰則が科されます。直接贈収賄とは、公務員が合法又は違法な行為を、贈答品、約束又は対価と引換えに行う(又は行うことを控える)ことを指し、これには犯罪行為、公務違反、さらには合法な職務行為も含まれます。間接贈収賄とは、公職者がその職位を理由に利益を収受することを指します。これらの規定の下では、贈答品の見返りとして行為を行うことに同意すること又は供与者が特定の見返りを求めなくても、その地位を理由に公務員に贈答品を供与することは違法となります。

 

賄賂を収受した公務員には2年から12年の禁錮刑が科されます(場合によっては終身刑が科される場合もあります)。贈収賄の性質及び贈答品の価値に応じて罰金が科され、公務員の場合は公職就任資格が剥奪されます。賄賂を供与した民間の個人には、公務員に対する腐敗の罪が成立し、上記と同じ罰則(資格剥奪を除く)が科されます。

 

b.AGCPA

 AGCPAには、禁止される、公務員による汚職行為の一覧が記載されています。AGCPAでは、(i)公務員が法に基づき職務上関与しなければならない、政府及びその他の当事者との間の契約又は取引に関連して、又は(ii)公務員が受けた支援又は今後受ける支援の対価として、政府の許可又はライセンスを確保・取得させた、又は今後確保・取得させる者からの利益を(直接又は間接に、自身又は他者のため)要求又は収受した公務員に対して罰則が科されます。また、AGCPAでは、公務員との間で継続中の公的案件を有する民間企業において、継続期間中又はその終了後1年以内に、公務員自身が雇用を受けること又はその家族のいずれかの者に雇用を受けさせることに対しても罰則が科されます。

 

民間の個人もAGCPAによる禁止の対象となり得ます。公務員と家族関係又は親密な個人的関係にある者は、当該公務員が関与すべき政府との間における事業、取引、申請、要請又は契約を有するその他の者から、贈与、贈答品又は物的若しくは金銭的利益を直接又は間接に要求又は収受することにより、当該家族関係又は親密な個人的関係を利用、活用又は悪用することは禁止されています。家族関係には、配偶者又は民法上三親等以内の血族若しくは姻族が含まれます。「親密な個人的関係」には、親密な個人的友情、社会的並びに友好的な関係及び専門職としての雇用(当該公務員との親密性を生じさせ、自由な接触を可能にする関係)が含まれます。

 

AGCPAに違反した場合、6年から15年の禁錮刑(賄賂を供与した者及び収受した者の両方に適用される。)、公職就任資格の剥奪、禁止されている利益、適法な収入に不相応な説明のつかない財産の押収/没収及び政府とのあらゆる形態の取引の禁止が科されます。罰則は、賄賂を収受した公務員と賄賂を供与した民間の個人の両者に適用されます。

 

c.PD46

 PD46では、特定の政府取引又は公的行為に関与していない場合でも、公務員の地位を理由に公務員が贈答品、記念品又は接待を受けること、及び民間の個人がこれらを供与することが厳しく禁止されています。

 

PD46に違反した場合、1年から5年の禁錮刑、行政処分及び公職就任資格の永久剥奪(公務員の場合)が科されます。罰則は、賄賂を収受した公務員と賄賂を供与した民間の個人の両者に適用されます。

 

d.RA6713

 RA6713は、主に公務員及び職員の倫理基準の確立及び誠実性の促進を目的とした行政法であり、公務員のみ制裁の対象となります。同法では、公務員が公式の取引を行う個人又は団体から、直接又は間接に贈答品、心付け、優遇、接待、貸付又は金銭的価値を有するものを求める又は受け入れることが明確に禁止されています。違反は一般的に刑事訴追ではなく、戒告、停職又は解任などの行政手続で処分されますが、重大な違反には刑事制裁が科される場合もあります。

 

RA6713に違反した場合、最長5年の禁錮刑及び/又は最大5,000ペソの罰金及び裁判所の裁量による公職就任資格の剥奪が科されます。その重大性に応じ、適正手続を経た後、違反者は最大1年の停職、退職又は6カ月分の給与を超えない罰金などの行政処分を受ける場合もあります。他の法律(RPC、AGCPA及びPD46など)により重い罰則(AGCPA又はPD46など)が科された場合、処罰は当該法令に基づいて進められ、該当する法に基づく罰則が適用されます。しかし、個人は当該法律の下で罰せられることはなく、代わりに前記の他の贈収賄規制法に基づく責任を問われる場合があります。

 

有責となる金額基準が設けられていないこと

 

フィリピンにおける贈収賄規制法令は、いずれも、個人が公務員に贈答品又は接待を供与することが認められる具体的な金額基準を定めていません。特に、RPC及びPD46は、犯罪行為に当たる金額基準や例外を定めていません。

 

ただし、単なる通常の記念品として、一般的な感謝や友情のしるしとして贈られる、少額又は軽微な価値の贈答品は、AGCPA第14条により認められています。このことから、公務員に限定的な贈答品を提供することは認められています。しかし、AGCPAは「少額又は軽微な価値」又は「一般的な感謝のしるし」に該当する金額基準を定義していません。したがって、許容される贈答品の価値は場合によって異なります。

 

RA6713の下では、以下の贈答品の収受は禁止されていません※9

 

※9 一部の政府機関は贈答品の贈与に関する独自のガイドラインを定めています(例えば、Bureau of Corrections、Office of the Ombudsman、Land Transportation Office、Bureau of Internal Revenue等)。ただし、これらのガイドラインは贈答品の供与者及び収受者が共に政府機関の職員である場合に限ります。

 

1.公務員又は職員からの便宜を期待せず、その見返りとして供与されるものではない、又は取引完了・サービス提供後に供与される少額の又は軽微な価値の自発的な贈答品は、許容される場合があります。何が少額の贈答品と認められるかは、公務員の給与、供与の頻度、利益享受への期待その他の要素によって異なります。

 

2.家族の祝賀行事における家族又は親族からの贈答品であり、金銭的な利益が期待されないもの。

 

3.公務員又は職員が関係する部門、事務所又は機関と定期的な、継続中の又は予定されている取引がなく、金銭的利益を期待しない者からの少額の寄付。

 

4.国内又は海外を問わず、人道的かつ利他的目的及び任務を有する民間団体からの寄付。

 

5.政府から政府機関への寄付。

 

ある裁判例の事案では、クリスマスパーティーの食料購入のために12人の従業員(公務員/職員)が受領した1,500ペソ(約USD30)の一方的な現金の供与は、少額のものとみなされ、フィリピンの贈収賄規則に基づく「贈答品」の定義に当たらないと判断されました(Mabini v. Raga, A.M第P-06-2150号(2006年6月21日))。

 

しかし、当該事案のように、利益の供与が賄賂と見なされるかどうかは、個々のケースの文脈又は状況によって完全に異なります。

 

企業の責任及び予防措置

 

フィリピンでは、企業は刑事責任の対象となりません。したがって、個人のみが適用対象とされる前記の贈収賄規制法令について企業が責任を問われることはありません。ただし、Revised Corporation Code of the Philippines(以下「RCC」といいます。)は、(i)関連法令で定義される横領や汚職行為を隠蔽するために企業を利用すること、及び(ii)企業が、企業の利益のために横領や汚職行為を行う仲介者を任命することを禁止しています。RCCに基づくこれらの禁止事項に違反した企業は、それぞれ100,000ペソから5,000,000ペソ又は100,000ペソから1,000,000ペソの罰金を科される場合があります。

 

企業の取締役、理事、役員若しくは従業員による横領や汚職行為について、取締役、理事又は役員が、処罰の実施、適切な政府機関に対する報告・提出を怠った場合、又はこれらを容認・許容した場合、RCCに基づき、500,000ペソから1,000,000ペソの罰金が科される可能性があります。

 

フィリピンで事業を行う企業において、企業・取締役に上記のような責任が生じることを避けるためには、贈収賄防止コンプライアンスについての強固なシステム等、予防措置を構築することが重要です。

 

3.政府機関とのやり取りに内在するリスク

フィリピンで事業を行うに当たり、企業や個人は政府とのやり取りを行う際、法令遵守上のリスクに直面する場合があります。

 

例えば、Philippine Bureau of Internal Revenue(以下「BIR」といいます。)による税務監査では、BIRが納税者の帳簿・記録を正式に調査して税務コンプライアンスについて確認しますが、実務上、重大な財務リスク及びコンプライアンス上のリスクを伴うことが多くあります。BIRの職員が裁量的権限を有すること、追徴課税に基づく潜在的な多額な財務上のリスクがあること、権力の不均衡が内在的に存在することに起因して、監査プロセスは賄賂やハラスメント、汚職の影響を受けやすい状況にあります。

 

このような懸念は、2025年後半のおとり捜査の事案で顕在化しました。同事案では、2人のBIR職員が、企業の税評価額を大幅に減額する見返りに賄賂を要求したとして逮捕され、これにより広範な制度改革が促進されました※10。BIRは、手続の脆弱性を見直すために監査を一時停止し、2026年1月、Letter Of Authorityの納税者による確認、監査対象の自動選定、単一例監査フレームワーク、監査権限の統合、監査人の裁量の制限及び「監査人の監査」プログラム等を含む、統制の強化、透明性の向上及び説明責任の確保を図る新たな監査規則を導入しました※11。これらの改革は、新たな監査ルールへの違反に対して行政、民事及び刑事上の責任を課す場合があり、不正行為の公的な報告を促進するものですが、その有効性については上院による査定対象となっており、上院による調査が継続しています。

 

※10 BIRは2025年12月11日に、直接贈収賄及びLOA不正使用の疑いで2人の従業員に対して行政事件を提起。詳細は下記URLにて参照可能。https://www.gmanetwork.com/news/topstories/nation/969247/bir-files-admin-case-vs-2-employees-over-allegeddirect-bribery-loa-misuse/story/(最終アクセス日:2026年2月27日)

 

※11 2025年10月1日に、BIR職員が直接贈収賄及び汚職で逮捕された。詳細は下記URLにて参照可能。https://nbi.gov.ph/press_releases/2025/10012025/8953/(最終アクセス日:2026年2月27日)


BIRにおける監査の一時停止、及び制度改革のイニシアチブに関する最近の動向が示すとおり、フィリピンの政府機関が広範な裁量を行使する一定の状況では、政府機関とのやり取りにおいて贈収賄・汚職のリスクが生じる可能性があります。
 

4.終わりに

贈収賄及び汚職はフィリピンの法律で厳格に規制されており、汚職行為に関与した者は厳しい刑事、行政及び民事上の責任の対象とされています。それにもかかわらず、フィリピンのCorruption Perceptions Index(腐敗認識指数)の順位低下及びBIRに関する最近の制度改革の例に見られるとおり、フィリピンにおける構造上及び実務上の課題は依然として存在します。

 

政府機関とのやり取りに内在するリスクの管理は容易ではありませんが、フィリピンで事業を行う企業においては、そのようなリスクの存在を認識した上で、適切な対応及び法令遵守を可能にするため、実効的なコンプライアンス体制を構築することが重要です。

 

以上
 

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井浪 敏史
ミシェル・マリエ・F・ヴィラリカ

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