(4)商標法
商標権を登録していれば、商標権者は、指定商品・役務の範囲内で(商標登録する際には指定商品・役務を指定する必要があります)、その商標を独占的に利用でき、他人の利用を禁止することができます。
しかし、リアルの商品について登録商標を有していたとしても、その指定商品・役務が、バーチャルの商品に及ぶのでしょうか。
例えば、靴について商標権を取る場合、指定商品をアパレル(25類)として登録するのが通常ですが、その指定商品の商標権は、バーチャルの靴に及ぶのでしょうか。バーチャルの靴はアパレルではなくデータであることから、ソフトウェア(9類)であり指定商品が異なるとして、商標権が及ばない可能性があります。
もっとも、登録商標の効力は類似の商品・役務にも及びます。類似の判断は、同一営業主の製造・販売に係る商品・役務と誤認されるおそれ(出所混同のおそれ)があるかが基準となっており※2、バーチャルの商品とリアルの商品の間には誤認が生じないという判断を裁判所がする可能性があります。
※2 最判平成9年3月11日民集51巻3号1055頁[小僧寿し事件]
さらに、商標権侵害が成立するためには、「業として」の使用であることや(商標法2条1項)、商標的使用であること(商標法26条1項6号)が必要とされています。
「業として」とは反復継続することを意味するとされていますが、この要件を満たさない場合も考えられます。
また、他人の商標を使用していても、それが「商標的使用」でなければ商標権の侵害とはなりません。「商標的使用」とは、営業上のフリーライドなど商標の持つ自他識別力や出所表示機能を利用する使用のことをいいます。バーチャルでの使用については、リアルとの混同が生じておらず、商標の持つ自他識別力・出所表示機能を利用する使用ではないと裁判所が判断する可能性もあります。
したがって、リアルの商品について商標権を有していたとしても、メタバースにおける無断使用を止めることができない可能性があります。
商標権者の対抗策としては、商標の登録において、仮想空間で使用するものとして、ソフトウェアを指定商品とすることが考えられます。
(5)意匠法
デザインを意匠として登録していれば、意匠権者は、その意匠を独占的に利用でき、他人の利用を禁止することができます。
しかし、リアルの商品について意匠権を有していたとしても、その意匠権が、バーチャルの商品に及ぼすにあたっては、商標権と同様に、いくつかのハードルがあります。
まず、商標権侵害が成立するためには、業としての使用であることが必要とされています(意匠法23条)。
また、意匠権の効力は、同一・類似の意匠に及びますが、この「同一・類似」の判断は、物品の性質、目的、用途、使用態様を考慮するものとされています。バーチャルでの使用は、リアルと物品の性質、目的、用途、使用態様が異なるため、同一・類似ではないと裁判所が判断する可能性があります。例えば、リアルの靴は、歩くために利用されますが、バーチャルの靴は歩くために利用されるものではなく、性質・目的・用途・使用態様が異なります。
したがって、リアルの商品について意匠権を有していたとしても、メタバースにおける無断使用を止めることができない可能性があります。
そこで、商標と同様に、バーチャル商品のデザインについても意匠を登録することが考えられます。しかし、意匠法では、画像意匠が登録できるのはアイコンのような操作画像や、機器がその機能を発揮した結果として表示される表示画像に限定されています※3。そのため、メタバースで使用されるアバターやアイテムについて意匠権を登録することはできないことが多いと考えられます。
※3 意匠法は、令和元年改正前は有体物についてしか意匠登録を認めておらず、令和元年の改正により、初めて画像について意匠権登録ができるようになりました。
したがって、メタバースにおいて、リアルの商品のデザインを意匠権で保護することは困難であると言えるでしょう。