プロ投資家(特定投資家)に関わる制度改正の動向 (※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『金融ニューズレター(2022/4/14号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

本ニューズレターは、2022年4月14日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

1. 市場制度ワーキング・グループ等の提言

2021年6月18日に公表された「金融審議会 市場制度ワーキング・グループ 第二次報告―コロナ後を見据えた魅力ある資本市場の構築に向けて―」※1では、成長資金の供給のあり方等に関する提言が取りまとめられていましたが、その中には成長資金の円滑な供給に資するものとして特定投資家制度の見直しに関する種々の提言も含まれていました。また、日本証券業協会(以下「日証協」)は、2021年6月15日に、非上場株式取引制度の課題・改善策について取りまとめた「『非上場株式の発行・流通市場の活性化に関する検討懇談会』報告書~新規・成長企業へのリスクマネー供給の拡大に向けて~」※2を公表し、その中でも特定投資家私募の制度整備や特定投資家に対する店頭有価証券の投資勧誘規制の緩和等の特定投資家制度に関する提言が含まれていました。

 

※1 https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20210618.html。同報告のポイントについては2021年6月24日付けのニューズレター(https://www.nishimura.com/ja/newsletters/finance-law_210624.html)をご参照ください。

※2 https://www.jsda.or.jp/about/kaigi/jisyukisei/gijigaiyou/hijojokon.html

 

近時、これらの提言を踏まえた制度の見直しが進められており、その具体的な内容が明らかになってきています。本稿では、改めて特定投資家制度の概要を説明した上で、特定投資家に関わる制度改正の動向について解説します。

 

なお、筆者は市場制度ワーキング・グループ(以下「市場制度WG」)及び非上場株式の発行・流通市場の活性化に関する検討懇談会のメンバーを務めていますが、本稿の意見に亘る部分は筆者の私見であり、これらの会議体やその他の組織の見解を示すものではないことを申し添えます。

2. 特定投資家制度

金融商品取引法(以下「金商法」)は、リスク管理能力及びリスク許容度の高いプロ投資家を「特定投資家」と位置付け(金商法2条31項)、金融商品取引業者等が特定投資家を顧客とする場合に一定の行為規制の適用が除外されたり、特定投資家向けの取引の枠組みが設けられていたりします。

 

一定の特定投資家は申出により一般投資家として、一定の一般投資家は申出により特定投資家として、それぞれ取り扱われることが可能となっており、投資家は、①一般投資家に移行できない特定投資家、②一般投資家に移行可能な特定投資家、③特定投資家に移行可能な一般投資家、④特定投資家に移行できない一般投資家の4つの類型に分けられます(金商法2条31項、34条の2第1項、34条の3第1項、34条の4第1項、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令23条、金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」)61条、62条)。本稿の執筆時点で、各類型の含まれる投資家の範囲は図表1のとおりです。

 

[図表1]特定投資家・一般投資家の分類

3. 個人の特定投資家の要件の弾力化等

金融庁は2022年4月1日に特定投資家に移行可能な個人の要件等を見直すことを内容とする金商業等府令の改正案を公表し、同年5月1日までの期間、パブリックコメントの手続を行っています※3。この改正案に従って金商業等府令の改正がなされた場合、特定投資家に移行可能な個人※4は概要図表2のようになります※5

 

※3 https://www.fsa.go.jp/news/r3/shouken/20220401/20220401.html

※4 図表1のとおり、出資合計額3億円以上の組合・匿名組合等の運営者である個人も特定投資家に移行可能ですが(金商法34条の4第1項1号)、改正の対象となっていないため捨象しています。

※5 以下の内容は改正案の内容であり、最終的な金商業等府令の改正内容は変動する可能性があることにご留意ください。

 

この改正は2022年半ばを目処に施行されるものと見込まれます。

 

太字が改正部分 注1 移行の申出を行った金融商品取引業者等との取引経験だけが基準となっていたものが、他の金融商品取引業者等との取引経験も考慮することが可能とされています。※6 注2 金融機関業務/経済学・経営学に関する教職・研究職 注3 証券アナリスト/証券外務員(1種・2種)/1級・2級FP技能士/中小企業診断士
[図表2]改正案による特定投資家に移行可能な個人の範囲 太字が改正部分
注1 移行の申出を行った金融商品取引業者等との取引経験だけが基準となっていたものが、他の金融商品取引業者等との取引経験も考慮することが可能とされています。※6
注2 金融機関業務/経済学・経営学に関する教職・研究職
注3 証券アナリスト/証券外務員(1種・2種)/1級・2級FP技能士/中小企業診断士

 

※6 現行は「当該金融商品取引業者等」との間で金融商品取引契約を締結した日が起算点とされているのが(金商業等府令62条3号)、「金融商品取引業者等」との間で金融商品取引契約を締結した日が起算点とされています。

西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

証券化、ストラクチャード・ファイナンスその他の金融取引および信託取引と各種の金融規制を専門とする。
金融取引については、アレンジャー、オリジネーターあるいは信託受託者のカウンセルとして、金銭債権を中心に多様なアセットクラスの証券化取引に関与した経験を有しており、国内初となったものも含む様々なスキームのストラクチャード・ファイナンス案件を手がけている。また、定型的な信託取引についてのアドバイスを行うだけでなく、新規信託商品の開発や、信託を用いた複雑なスキームの組成に関与した経験も多く有する。
さらに、金融分野での弁護士業務を通じて見識を得ていることに加えて、金融庁総務企画局企業開示課に所属し、金融規制の企画立案に携わった経験を有しているため、各種の金融規制にも精通しており、多くの銀行、信託銀行、証券会社、保険会社、ノンバンクその他の金融機関に対して金融規制についてのアドバイスを行っているほか、新類型の取引や商品と金融規制の適用に関するアドバイスを行うことも多い。
また、法制度や金融実務等に関する執筆、講演を多数行っており、各種の研究会、ワーキンググループ等に参加することも多く、金融法制に関するオピニオンリーダーの一人として認知されている。

【資格/登録】
第一東京弁護士会(2002年登録)

【学歴】
2001年 東京大学法学部第一類 (LL.B.) 経歴

【経歴】
2009年- 金融法委員会 委員
2010年-2011年 金融庁総務企画局企業開示課専門官
2013年- 京都大学法科大学院 非常勤講師
2013年- 日本証券業協会「JSDAキャピタルマーケットフォーラム」 専門委員
2013年-2014年 日本証券業協会「非上場株式の取引制度等に関するワーキング・グループ」 委員
2014年-2016年 新生債権回収&コンサルティング株式会社 取締役
2018年- 武蔵野大学大学院法学研究科 特任教授
2018年-2019年 日本証券業協会「株主コミュニティ制度に関する懇談会」 委員
2020年- 日本証券業協会「事故確認委員会」 委員
2020年- 金融庁金融審議会 市場制度ワーキング・グループ メンバー
2020年-2021年 日本証券業協会「非上場株式の発行・流通市場の活性化に関する検討懇談会」 委員
2021年-2022年 一橋大学大学院法学研究科 非常勤講師
2021年- 東京証券取引所「SPAC制度の在り方等に関する研究会」 メンバー
2021年- 金融法学会 理事
2022年 内閣府「イノベーション・エコシステム専門調査会」 委員

【主な論文/書籍】
『資産・債権の流動化・証券化〔第4版〕』(金融財政事情研究会、2022年)
『実務問答金商法』(商事法務、2022年)
『新たな信託ソリューションと法務』(金融財政事情研究会、2022年)
『Q&A金融サービス仲介業』(金融財政事情研究会、2021年)
『金融機関コンプライアンス50講』(金融財政事情研究会、2021年)
『実務解説 改正会社法<第2版>』(弘文堂、2021年)
『証券化ハンドブック』(流動化・証券化協議会、2020年)
『デジタルエコノミーと課税のフロンティア』(有斐閣、2020年)
『リース法務ハンドブック』(金融財政事情研究会、2020年)
『個人情報保護法制大全』(商事法務、2020年)
『債権法実務相談』(商事法務、2020年)
『金融資本市場と公共政策 - 進化するテクノロジーとガバナンス』(金融財政事情研究会、2020年)
「自己信託と債権譲渡の競合に関する一考察」『民法と金融法の新時代』(慶應義塾大学出版会、 2020年)
『金融資本市場のフロンティア - 東京大学で学ぶFinTech、金融規制、資本市場』(中央経済社、 2019年)
『SECURITIZATIONS: Legal and Regulatory Issues』(Law Journal Press、2019年)
『社債ハンドブック』(商事法務、2018年)
『詳解 民事信託 実務家のための留意点とガイドライン』(日本加除出版、2018年)
『金融とITの政策学 - 東京大学で学ぶFinTech・社会・未来』(金融財政事情研究会、2018年)
『新株予約権ハンドブック[第4版]』(商事法務、2018年)
『ファイナンス法大全(下)[全訂版]』(商事法務、2017年)
『資金調達ハンドブック〔第2版〕』(商事法務、2017年)
『種類株式ハンドブック』(商事法務、2017年)
『ファイナンス法大全(上)[全訂版]』(商事法務、2017年)
『ここが変わった!民法改正の要点がわかる本』(翔泳社、2017年)
『FinTechビジネスと法25講 - 黎明期の今とこれから -』(商事法務、2016年)

【受賞歴】
2022年2月 Chambers Global 2022: Capital Markets: Securitisation & Derivatives in Japan
2021年12月 Chambers Asia-Pacific 2022: Capital Markets: Securitisation & Derivatives in Japan
2021年12月 Chambers FinTech 2022: FinTech Legal in Japan
2021年9月 IFLR1000 2021-22: Capital markets: Structured finance and securitisation
2021年8月 The A-List: Japan’s Top 100 Lawyers 2021
2021年2月 Chambers Global 2021: Capital Markets: Securitisation & Derivatives in Japan
2020年12月 Chambers Asia-Pacific 2021: Capital Markets: Securitisation & Derivatives in Japan
2020年12月 Chambers FinTech 2021: FinTech Legal in Japan
2020年9月 IFLR1000 2021: Capital markets: Structured finance and securitisation
2020年4月 Best Lawyers - 2021 edition: Corporate Governance & Compliance
2020年1月 Chambers FinTech 2020: FinTech Legal in Japan
2019年12月 Chambers Asia-Pacific 2020: Capital Markets: Securitisation & Derivatives in Japan
2017年12月 日本経済新聞社「2017年に活躍した弁護士ランキング」

著者紹介

連載西村あさひ法律事務所 ニューズレター

○N&Aニューズレター(金融ニューズレター)のバックナンバー一覧はこちら
 
○執筆者プロフィールページ 
有吉尚哉

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
TOPへ