(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍前からアメリカのショッピングモールの4分の1は閉鎖に追い込まれるとその危機が叫ばれていました。コロナを経て、その危機はさらに大きく、金融機関を巻き込むといわれています。その危機とは何でしょうか。ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。

あなたにオススメのセミナー

    【オンライン開催(LIVE配信)】希望日時で対応(平日のみ)
    「日本一富裕層に詳しい税理士」による無料個別相談セミナー
    富裕層の相続対策から税金対策の悩みを一挙解決!
    詳しくはこちら>>>

    悪夢再び?商業用不動産ローンは大丈夫か

    モール運営会社のなかには、破綻する小売業者の所有権取得に動き出したところもある。アメリカ各地でショッピングモールを手がける有力運営会社サイモンプロパティーズは、ファストファッション大手フォーエバー21や百貨店チェーンのJCペニーを買収した。サイモンプロパティーズCEOのデイビッド・サイモンは、投資家向け収支報告の際、こうした投資に踏み切った理由として「投資リターンがあると思う」と述べている。

     

    具体的な説明がなかったのは、その方法だ。賃料は払われるとしても、JCペニーのような死に体ブランドを買収して、どう稼ぐというのだろうか。JCペニー買収について、私を含め業界関係者の多くは、そのうちなるべくしてなる事態を未然に防ぐためだけの措置と受け止めた。むしろ、ショッピングモール運営会社が、特定の中核テナントに過度に依存してきたために、自分の首を絞めることになった典型例と言えなくもない。

     

    運営会社に負担がのしかかって影響が出てくれば、商業用不動産の取得に利用した融資の返済を停止する可能性が高い。しかも、こうした不動産の多くは、債務に見合う価値がなくなっている。現に最近の『ウォール・ストリートジャーナル』紙の調査によれば、ある業界は、パンデミック前の段階で崖っぷち状態だった。2013年から2019年にかけて設定された抵当権6500億ドルについて調査したところ、「通常の経済状況下でも、抵当不動産の純利益は、貸し手の引き受け額を下回ることもたびたびあった」という。

     

    つまり、調査の対象となった抵当権は、サブプライムローンだったことがわかる。実は、この由々しき事態は、2019年6月の時点で国際決済銀行(BIS)がアメリカとイギリスを名指しして、気がかりな傾向が顕著として、次のように指摘していた。

     

    「近年、信用スコアの低い企業による借入が増加しており、社債市場が不安定化していたことを意味する」。しかも「不安定」だったのは、パンデミック前の話である。当然、事態は悪化している。

     

    同レポートは次のように指摘していた。

     

    この調査から、1兆4000億ドル規模の商業用不動産担保証券(CMBS)市場のリスクが浮かび上がった。このCMBSは、ショッピングモールや集合住宅、ホテルなどに実施した融資をまとめて証券化した金融商品で、多くの場合、政府系機関の保証がつく。調査からわかるのは、パンデミック前に販売されたこうした金融商品は、粉飾決算も絡んでいる可能性が高く、ひとたび景気が下降局面に入れば、さらに厄介なことになりかねない。

     

    要するに、「あなたの年金基金が吹き飛びました」と言っているのと同じだ。2008~2009年のリーマン・ショックへの突入前夜のように、証券業界はサブプライムローンをうまいこと忍ばせて、ピカピカの新しい金融商品に仕立てる傾向があった。サブプライムの住宅ローンを舞台にした砂上の楼閣が崩れ去ろうとしたときに、商業用不動産ローンに舞台を移し、新たな砂上の楼閣をつくりはじめていたのである。

     

    ■もうパンデミック前の世の中には戻らない

     

    こうやって世界的な信用危機が生まれるのだ。小売業界で巨額の商業ローンを実施した貸し手が、今度は債務返済もままならない収入の不動産を相手に、サブプライムローンを実施して債権(紙屑同然である)を抱えているわけだ。そうこうしている間にも、こうしたローンの多くがまとめられて証券化され、担保資産のある質のいい金融商品として販売された。むろん、今だから言えるが、とんでもない金融商品だったわけだ。

     

    つまり、いつ崩壊しても不思議ではないし、危機的状況にあるのは、世界の商業用不動産業界だけではない。崩壊ともなれば、ゾッとするような被害に遭うのが、銀行や機関投資家である。保有する資産が、もはや格付けの対象ではなくなるからだ。

     

    このままいったら、2008年のリーマン・ショックの再来になるのか。それは誰にもわからない。たとえ最悪のシナリオを回避できて、融資先の事業がパンデミック前の水準に戻ったとしても、ショッピングモールは振り出しに戻るだけだ。残念ながら、世の中はもう別の方向に動き始めていて、そこにショッピングモールが同じ商売を続けても、ジリ貧になっていくだけなのだ。
     

     

    ダグ・スティーブンス
    小売コンサルタント

     

    関連記事

     

     

     

    ↓コチラも読まれています 

    ハーバード大学が運用で大成功!「オルタナティブ投資」は何が凄いのか

    富裕層向け「J-ARC」新築RC造マンションが高い資産価値を維持する理由

     業績絶好調のジャルコのJ.LENDINGに富裕層が注目する理由 

    コロナ禍で急拡大!トラックリース投資に経営者が注目する理由

      「給料」が高い企業300社ランキング…コロナ禍でも伸びた会社、沈んだ会社

    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

    アフターコロナに生き残る店舗経営とは? 「アフターコロナ時代はますますアマゾンやアリババなどのメガ小売の独壇場となっていくだろう」 「その中で小売業者が生き残る方法は、消費者からの『10の問いかけ』に基づく『10の…

    人気記事ランキング

    • デイリー
    • 週間
    • 月間

    メルマガ会員登録者の
    ご案内

    メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

    メルマガ登録
    会員向けセミナーの一覧