1. 不動産投資でローンを利用するメリット
1.1. 最大のメリットは「レバレッジ」
まず、不動産投資においてローンを利用する意義について解説します。
それは、「レバレッジ」をかけられるということです。
どういうことかというと、自己資金に加え、ローンを組んで多額の借入れをすることで、高額な物件を購入でき、大きな収益を得られるということです。
たとえば、自己資金が2,000万円だったとして、ローンを組まずにこの2,000万円だけで物件を購入しようとすると、選択肢自体が限られます。また、利回りが4.8%だとすると、収益は年96万円です。
これに対し、自己資金2,000万円に加え8,000万円の融資を受けて年利3%でローンを組み、1億円の物件を購入した場合はどうでしょうか。
利回り4.8%だとすると、収益は年480万円です。ここから利息3%に相当する240万円を差し引いても、240万円が手元に残る計算です。
すなわち、ローンを組むことにより、利息を計算に入れても、自己資金のみで投資を行うよりも年144万円得をするということです。
1.2. 手持ちの資金が潤沢な場合もレバレッジ効果がある
仮に、手持ちの資金が潤沢な場合も、あえてローンを利用することで、レバレッジ効果を受けることができます。
すなわち、上記の例で、手持ちの資金が1億円だった場合、あえて1,000万円の頭金で9,000万円のローンを組むと、手持ち資金のうち残りの9,000万円を他で運用することができます。
1.3. ローンは相続税の節税にならない
なお、不動産投資でローンを利用すると、「相続税の節税になる」と説明されることがあります。ただし、これは不正確です。ローンの効果ではなく、不動産を購入すること自体による効果にすぎません。
どういうことか説明します。不動産の「相続税評価額」は、土地・建物のそれぞれについて以下の通りです。
- 土地:路線価
- 建物:固定資産税評価額
路線価は実勢価格の80%程度、固定資産税評価額は実勢価格の70%程度とお考えください。
また、小規模宅地等の特例の要件をみたせば、「貸付事業用宅地等」として、相続税評価額がさらに50%割り引かれます。
ただし、ローンはあくまでも借金ですので、相続税対策のみを目的として多額のローンを組むのはナンセンスです。なぜなら、借入金で多額の物件を購入することにより、いわば相続財産にもレバレッジが効いて膨れ上がった状態になるからです。
膨れ上がった相続財産にかかる相続税を減らす効果があったとしても、それは火をつけて自分で消すようなものであり、そもそも「節税」ではありません。
2. 住宅ローンとの違い
不動産投資ローンの住宅ローンとの違いについて、それぞれの特徴を簡単に説明しておきます。
2.1. 不動産ローンの特徴
不動産投資ローンは、人に賃貸して賃料収入を得るための不動産物件を購入する場合に利用するものです。返済原資として見込まれるのは物件を賃貸して得られる賃料収入です。
住宅ローンと異なり、「法人」でも組むことができます。
ローンの借主が賃料収入を確実に得られるかどうかは不確定なので、金融機関による融資の条件は厳しめであり、金利も年1.5%~4.5%程度と高めに設定されます。
2.2. 住宅ローンの特徴
これに対し、住宅ローンは、自身が居住する自宅を建築・購入する場合や、増改築する場合に利用するものです。返済原資として見込まれるのは給与収入等、日常的に働いて得られる収入です。したがって、ローンの借主に安定収入が期待できれば滞りなく返済が行われる可能性が高いといえ、金融機関による融資の条件は不動産投資ローンより緩やかです。また、金利も年0.5%~2.0%程度と低めに設定されています。
なお、昨今問題になった例ですが、不動産投資目的であることを隠して住宅ローンを借りるのは違法です。
3. 不動産投資でローンを組むうえでの5つの注意点
不動産投資でローンを組む場合、重要なのは、上述したレバレッジ効果を着実に享受し続けていけることです。すなわち、キャッシュフローに支障をきたすことなく返済をし、かつ、十分な利回りを得られるようにする必要があります。
注意点1. 収益を着実に上げられるよう物件を吟味する
まず、そもそもの大前提として、十分な賃料収入を得られなければ話になりません。着実に収益を上げられる物件を選ぶことが重要です。
この点については、後ほど「4. ローン審査における審査項目」の項で改めて解説します。
注意点2.「3つの融資条件」のバランスを考える
ローンの融資条件は以下の3つです。これらのバランスを考える必要があります。
- 借入額
- 金利
- 返済期間
このうち、レバレッジの効果を高くしようとすれば、「借入額」の比率を高くし、「金利」はできるだけ低くし、かつ、「返済期間」はできるだけ長くすることが望ましいといえます。
しかし、これらはある意味、両立しえない要素です。
すなわち、「借入額」の比率を高くすれば「金利」は高くならざるをえず、逆に「金利」を抑えたければ自己資金の比率を高めて「借入額」の比率を抑える必要があります。
また、「金利」を低くしようとすれば「返済期間」が短くなり、逆に「返済期間」を長くしようとすれば「金利」は高くなるという傾向があります。
融資を行う金融機関からすれば、融資を行うことにより返済を受けられないリスクを負うことになるので、こうなるのは当然といえます。
したがって、「借入額」「金利」「返済期間」のバランスを考えて資金計画を組む必要があります。
注意点3. 金利は「変動型」が基本
ローンの金利には「変動型」と「固定型」があります。「変動型」は金利が年2回見直されます。これに対し、「固定型」は金利が固定されたままずっと変わりません。
基本的には「変動型」を選ぶことをおすすめします。理由は2つです。
- マイナス金利政策がとられている
- 固定金利のほうが変動金利より高い
ただし、将来、金利がどう変動するかは誰にも読めません。いずれ金利が上がる可能性があることは留意しておく必要があります。
注意点4.「キャッシュフロー利回り」に注意する
次に、キャッシュフローでみた利回り(キャッシュフロー利回り)に注意する必要があります。
どういうことかというと、ローンを組むと毎月、「元金+利息」の分の額を返済しなければなりません。
キャッシュフローだけに注目すると、不動産投資による賃料収入を得た場合、手元に残るのは、そこから各種の経費・固定資産税等を差し引き、さらにローン返済額を差し引いた額です。
また、賃料収入から各種の経費とローンの利息を差し引いたあとの利益は「不動産所得」として扱われるので、所得税・住民税が課税されます。
なお、ローンの利息は不動産所得の計算において必要経費として差し引くことができますが、元金部分は必要経費にあたりません。
この、返済や納税まで含めて計算して手元に残った額について利回り(キャッシュフロー利回り)を計算すると、マイナスになってしまうことがあります。
不動産投資における利回りの考え方については、「不動産投資の利回りとは?計算方法、見方、相場と注意点」をご覧ください。
注意点5.「減価償却」完了後の税負担の増加も計算に入れておく
次に、これは上述のキャッシュフロー利回りに関係することですが、減価償却費の計上が終了すると税負担が増えることに注意が必要です。
減価償却費とは、不動産所得の計算上、建物の購入代金額を、複数年にわたって費用として計上していくものです。建物の場合、建物の種類ごとに定められた償却期間(法定耐用年数)に応じて、購入代金を均等に費用計上していきます(定額法)。
減価償却費は経費として計上されるので、その分だけ税負担が軽くなります。しかし、現実のお金はいっさい出ていかないのでキャッシュフローに影響を与えません。
ところが、減価償却期間が終わると費用計上がされなくなるので、その分、所得税・住民税が課税されるようになります。そうなれば、キャッシュフローが圧迫されることになります。
なお、法定耐用年数は以下の通りです。建物の種類に応じて、以下の年数が経過した場合は、減価償却費の計上がなくなり、その分の税金がかかってくるということです。
【新築建物の法定耐用年数】
- 木造:22年
- 軽量鉄骨造:27年
- 重量鉄骨造:34年
- RC造・SRC造:47年
【中古建物の法定耐用年数(原則)】
- 法定耐用年数-築年数×0.8
【中古建物の法定耐用年数(法定耐用年数<築年数 の場合)】
- 木造(築22年超)⇒償却期間4年
- 軽量鉄骨造(築27年超)⇒償却期間5年
- 重量鉄骨造(築34年超)⇒償却期間6年
- RC造・SRC造(築47年超)⇒償却期間9年
特に、築年数が古い建物ほど償却期間が短いので、償却期間が終わった後の税負担が大きくなります。このことをあらかじめ計算に入れておく必要があります。
4. ローン審査における審査基準
不動産投資ローンの審査の特徴は、借主の属性だけでなく、不動産の収益性が重視されることです。
4.1. 不動産の収益性(物件の担保価値も)
不動産の収益性で重要なのは、「賃料」と「空室リスク」です。いずれも、上述の「キャッシュフロー利回り」を計算するうえで必須の要素です。
また、金融機関が物件に抵当権を設定する場合、物件の担保価値の判断要素ともなります。
「賃料」と「空室リスク」を左右するのは「立地」と「築年数」と「建物の状態」です。
一般的には、「立地」が人気エリアに位置し、「築年数」が新しく、かつ「建物の状態」が良好であれば、収益性が高いと判断されます。
ただし、「築年数」が古い建物について、逆に収益性が高くなることがあります。
どういうことかというと、「築年数」が古い場合に収益性が低く評価される傾向がある理由は、維持管理・リフォームの費用が余計にかかると判断されるからです。
しかし、「築年数」が古くても「建物の状態」が良好であればそれでカバーされることもあります。たとえば、建物がリフォームしたばかりのケースです。
そこに着目し、あえて築古の物件を安く購入してリフォームを施してから、賃貸に出すケースもあります。利回りはその分大きくなります。ただし、物件の見極めについて高度なノウハウが必要です。
【注意】将来の「賃料」・「空室リスク」の変化も考慮される
物件の収益性については、将来の「賃料」「空室リスク」の変化も考慮に入れて判断されます。すなわち、「築年数」が古くなるにつれ、「賃料」の相場は下がり、「空室リスク」は高まります。
そこで、「賃料」については「毎年1%」「●年ごとに●%」など、徐々に賃料が下がっていくというシミュレーションが行われることがあります。
また、「空室リスク」については、あらかじめ織り込んで空室率20%で採算がとれるかどうかで判断されているといわれます。
4.2. 借主の人的属性
物件の収益性に加え、以下の個人的な属性も審査の対象となります。
- 職業・勤務先
- 年収
- 保有する金融資産(預貯金、有価証券、他の不動産等)
- 過去の不動産投資経験と実績
まず、「職業・勤務先」は、収入の安定性を示すものであり、自営業・フリーランスよりも会社員・公務員のほうが有利です。また、会社員・公務員の場合、勤務先の属性や勤続年数が問われます。
次に、「年収」「保有する金融資産」は、賃料収入が十分に得られなかった場合でも自力で返済する能力があるかを示すものです。
また、「過去の不動産投資経験と実績」は、不動産投資で成功する可能性の高さを示すものであり、加点要素としてはたらくものです。
5. 有利な条件でローンを組むため必要なこと
以上を踏まえ、最後に、有利な条件でローンを組むために知っておくべきことについてお伝えします。
5.1. 不動産会社はできるだけ多くの金融機関と提携しているところを選ぶ
まず、不動産会社によって利用できる金融機関のバリエーションが異なります。
したがって、できるだけ多くの金融機関と提携している不動産会社を選ぶことが望ましいといえます。
5.2. 金融機関の特質を知って利用する
不動産投資ローンを扱っている金融機関は大きく以下の3つに分けられます。
- メガバンク
- 地方銀行・信用金庫
- ノンバンク
まず、メガバンクは、金利が低い代わりに、融資額の上限が低く、審査厳しいという特徴があります。
次に、地方銀行・信用金庫は、地域に根差して金融サービスを行うという経営方針から、メガバンクよりも柔軟に対応してもらえるという特徴があります。たとえば、「プロパーローン」といって、顧客ごとに柔軟に条件を設定できるオーダーメイドのローンを組めることがあります(一般的なローンは、この「プロパーローン」との比較で、「アパートローン」と呼ばれることがあります)。
最後に、ノンバンクは、銀行等とは異なり、預入業務を行わず融資業務だけを行う金融機関です。審査は柔軟に行われます。しかし、その代わり、借入原資は外部の銀行等からの融資に頼っているため、金利が高く設定されており、しかも、各種手数料もかかります。ノンバンクを利用すると、キャッシュフロー利回りは著しく低下することを覚悟する必要があるといえます。
このように、金融機関ごとの特質を知ったうえで、ローンの審査を申し込むことをおすすめします。
まとめ
不動産投資においては、ローンを利用することで、収益にレバレッジをきかせることができます。また、手持ちの資金に余裕がある場合も、ローンを利用することで浮いた資金を他の経済活動に振り向けることもできます。
ただし、ローンを利用するうえでは「借入額」「金利」「返済期間」の3つの融資条件のバランスを考え、かつ、賃料収入だけでなく様々な現実の支出を計算に入れた「キャッシュフロー利回り」を考慮する必要があります。
不動産投資ローンの審査においては、住宅ローンとは異なり、借主自身の属性以外に、投資対象となる不動産自体の収益性も重要視されます。
不動産の収益性は「賃料」と「空室リスク」によって判断され、これらを左右するのは「立地」「築年数」「建物の状態」です。
有利な条件でローンを組むには、できるだけ多くの金融機関と提携している不動産会社を選ぶとともに、金融機関ごとの特性を知ったうえで審査の申込を行うことをおすすめします。