灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らないのも事実。自らが灘高、東大医学部卒業した精神科医の和田秀樹氏と、医療問題を抉り続ける気鋭の医療ジャーナリストの鳥集徹氏が「東大医学部」について語る。本連載は和田秀樹・鳥集徹著『東大医学部』(ブックマン社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

灘高2年、下から50番目で東大理Ⅲに現役合格

高2で進路選択をし、東大理Ⅲに現役合格するということ

 

鳥集 私は医療ジャーナリストとして、今まで実にたくさんの医療者の取材をしてきました。東大医学部出身の医師にもたくさん会ってきました。

 

しかし、おこがましい言い方に聞こえるかもしれませんが、東大医学部卒の医師のお話を聞くと、「もったいないなあ」と感じることがあります。他大学出身の医師と比べて、とりわけスゴイ仕事をしていると思えないことも多いからです。

 

彼らは最も偏差値の高い理Ⅲに合格した、頭がよくて能力のある人たちです。日本の未来、もっと言えば、世界の医療を変えていく仕事をすればいいのに、と。だからこそ、「もったいないなあ」と思うのです。

 

今、全国に82校ある医学部のうち、偏差値1位が東京大学の最難関、理科Ⅲ類です。そこから後期課程で、「東大医学部」となります。いわば狭き門中の狭き門なのは間違いありません。そんな最難関に入れるなんて、どんな子どもだったんだろうと率直に思います。

 

灘中学校、灘高等学校。
灘中学校、灘高等学校。

 

そこで、最初におうかがいするのですが、和田さんが、東大理Ⅲの受験を意識したのは、何歳くらいからですか?

 

和田 高2になってからです。私の進路選択はすごく遅いほうでした。というのも私は、灘中・高*の出身なのですが、高1の頃までは、理Ⅲどころか、東大に入れるか入れないか微妙な成績だったのです。1学年約220人中、下から50番くらいの成績でしたから。

 

灘中・高
灘中学校、灘高等学校。灘五郷の酒造家、両嘉納家および山邑家の篤志を受けて、旧制灘中学校として昭和2年に創設される。当時の東京高等師範学校(現筑波大学)校長兼講道館館長であった嘉納治五郎氏が開校当初の顧問。校是にも柔道の精神「精力善用」「自他共栄」を採用している。戦後より、中高6年間の一貫教育の形態をとる。

 

鳥集 そもそも、高校入学時には医学部を目指していなかったということですか?

 

和田 最初に告白しておきましょう。私は高校1年生までは夢もなく、東大に入れるかどうかわからない少年でしたが、17歳のときにある映画を観て、将来は映画監督になるという夢を持ちました。だから自慢じゃないけれど、高3のときには映画を300本も観ていたのです。ただ、その当時に日活が助監督試験をやめたので、東大の文系から社員助監督になる道が閉ざされました。

 

そこで、自分で金を作って映画を撮ろうと思ったわけです。当時はATG(日本アート・シアター・ギルド)という会社が1000万円映画というのを始めたのですが、終身雇用の時代に、映画を撮るために休むことができて、そのための資金が作れる仕事は医者しか思いつきませんでした。弁護士も考えないではなかったのですが、大学に入ってからの勉強の大変さから、映画を観ることも、作ることもできないだろうと思ったこともあります。

 

小さい頃から親に言われていたことも思い出しました。「あんたは変わり者やから、会社勤めは続かんやろ。ちゃんと勉強して一生食べられる資格を取らんと大変なことになるで」と母親からは言われ続けていたのです。

 

当時はまだそんな言葉はありませんでしたが、母親は私のアスペルガー的な気質に気がついていたのだと思います。会社勤めをせずに一生食べられる資格とは、暗に「医者か弁護士になれ」と言っているなというのも薄々わかっていました。

 

確かに私は、思ったことをすぐ口にして友達を怒らせたり、相手の顔色を気にせず話を続けてしまったりすることがあって、母親の言う通りかもしれないと思うようになりました。

 

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東大医学部

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和田 秀樹 鳥集 徹

ブックマン社

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