(※写真はイメージです/PIXTA)

母親の老後を看る約束で、自宅建物を相続した二女。しかし、生前に父親が行った、長女への自宅敷地贈与という不可解な行為により、将来的な財産の行方と姉妹関係に問題が発生します。どのような解決策があるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

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高齢母と二女一家が暮らす実家敷地は、なぜが長女名義

今回の相談者は、50代会社員の福田さんです。福田さんは実家で、自分の母親、夫、高校生の子どもひとりの4人で生活しています。福田さんは3姉妹の二女で、長女と三女は結婚して実家を離れています。

 

いま暮らしている実家の建物は、20年以上前に父親が建て替えたものです。理由は不明なのですが、父親は自宅建て替えのタイミングで、なぜか自宅敷地を長女に贈与しました。その後、長女と三女は結婚して他県で暮らすことになったため、福田さんの家族が両親と同居することになりました。

 

父親が亡くなったとき、同居する福田さんが母の老後を看るという条件で、父親名義だった自宅建物を相続しました。しかし、土地は姉名義のままでした。

 

それから時間が経過し、福田さんも定年退職の時期が見えてきました。福田さんは、実家をいまの状態で放置していては、子どもの代になったときに問題になると考え、姉に土地の名義変更を頼んだのだそうです。

「そもそも、姉が買った土地ではありませんし…」

「あの土地はそもそも父の所有で、姉がお金を出して買ったわけではないでしょう? 母の老後を看るという約束にもなっていますし、名義を変えてくれるのは当然だと思って、すごく軽い気持ちで頼んだのです」

 

しかし一方で、自宅の固定資産税は姉が払っていたといいます。

 

「姉の嫁ぎ先は地主で、代々不動産経営をしている資産家なのです。姉は義兄のお金を自由に使っていて、コロナ前はしょっちゅう海外に出かけていましたし、ブランド物の洋服やバッグもたくさん持っています。私の家族と同居するとき、姉に敷地の固定資産税のことを聞いたんですけど、〈そのぐらい、別にいいわよ〉といわれたので、それっきり…」

 

福田さんいわく、名義変更を依頼するときの態度が気に入らず、姉は気分を害したらしいとのことでした。最初こそ贈与を了承するそぶりがあったものの、その後二転三転し、母・姉・妹の3人名義にするという話から、とうとう「福田さんの名義にすることがイヤ」という言葉が出るほど、話し合いはこじれてしまいました。

 

「母の名義ならともかく、妹の名義まで登記するとなれば、結局同じことの繰り返しで解決になりませんよね。妹から名義を買い取るなら、当然姉からも買い取らなければいけなくなりますし…。なにか別の選択肢はないのでしょうか…?」

 

福田さんは頭を抱えています。

姉妹間の意地の張り合いを「丸く収める」方向へ

福田さんの姉も妹も自宅があり、実家の不動産は必要ありません。筆者がくわしく話を聞いても、やはり、話の流れのなかで姉の気分を害して怒りを買ったことぐらいしか、理由は想像できませんでした。

 

しかし、このまま放置していると、姉亡きあと、姉の配偶者や子どもに土地の所有権が移ってしまいます。

 

姉妹間で売買や贈与する方法もありますが、譲渡税や贈与税が課税されて負担になります。そこで筆者が提案したのは、現状維持のまま、姉に公正証書遺言を作成してもらう方法です。姉の死後、福田さんか福田さんの子どもに遺贈してもらう内容とするのです。

 

近しい身内であるほど、ちょっとした言葉や態度が引っ掛かり、それが引き金となって、過去のいろいろな出来事が蒸し返され、トラブルが大きくなることがあります。きっかけはささいなことでも、お互いが意地を張るうちに、埋まらない溝ができてしまうのです。

 

家族関係が悪化したときは、冷静な第三者が介入することで、解決の糸口が見つかることもあります。今回の福田さんのケースでも、いちばん費用負担が少なく、かつ双方が丸く収まる方向を提示することで、福田さんも姉も納得し、うまく着地することができました。福田さんの子どもと姉の間には、以前より信頼関係があり、交流が続いていることも幸いしました。

 

強引に金銭で決着をつけ、きょうだい関係の断絶を決定的にするのではなく、双方が譲歩し合い、つながりを維持できたことで、結果的にストレスや後悔のない結果に導けた事例だといえます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

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曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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