弟を東大現役合格させた母親の声かけ
■アドラー流と私の母の共通点
現代の心理学の源流の一つを築いた心理学者として、近年脚光を浴びているのがアルフレッド・アドラーです。
アドラーは親子の関係を対等なものであると考え、子どもが人生の課題に取り組み、乗り越えていくための勇気を与えること(勇気づけ)が大切である、と言いました。これは、親が子どもの上に立って、褒めたり叱ったりしながら導いていく子育てと大きく異なっています。
当然、アドラーと私の母親には何の接点もなく、母親がアドラー心理学の本を読んでいたとは思えません。
しかし、母親は、自然のうちにアドラー流の勇気づけを実践していたような気がします。
■「自分のために勉強しなさい」
少なくとも、私は母親から一度として「勉強をしなさい」と強要されたことはありません。また、勉強ができなかったからといって、一度も叱られた記憶がないのです。その代わり、耳が痛くなるほどに聞かされたのが、
「勉強をしないで損をするのは私ではなく、お前たちだ」
という言葉です。逆の視点から「勉強をして得をするのは、私ではなくお前たちだ」というのも頻繁に耳にした記憶があります。
たとえばテストで良い点を取ったとしましょう。普通の親であれば、気分を良くしたり子どもを褒めたりするところですが、母親は違いました。
要するに、「勉強をして成績が良くなって、社会的な地位を築くことで、もっとも得をするのは本人なのに、どうして親が子ども以上に喜んだり、子どもを褒めたりする必要があるのか」と言うのです。
そして、勉強しないで社会の落伍者となり、野垂れ死にしたとしても、それは自己責任であるから親の関知するところではない、という趣旨のこともよく聞かされました。
「勉強しないと、将来的に困る」
「勉強すれば、未来が開ける」
という言葉は脅迫に近いくらい繰り返し聞かされたものの、あくまでも親のためでなく自分のために勉強しなさいというスタンスでした。
■親の声かけの影響力
また、前述したように母親は、特に弟に対しては、「絶対にこの子は頭がいい」と信じ、実際に「お前は賢い」と声をかけ続けていました。
弟が灘中の受験に失敗したときも、母親の態度はまったく変わることがありませんでした。母親の本能として、父親からも兄からもバカにされている次男を守れるのは自分だけだと思っていたのかもしれません。
弟は、志望校でもない中学に入学し、片道1時間半もかけて通学していたこともあって、相当なストレスを抱えていたようです。通学途中にお腹を壊してしまい、途中で何度も帰宅する時期もあったのを記憶しています。校内に友人がいるから何とか踏みとどまってはいたものの、実際には不登校に近いような状態だったのです。
それでも、弟は進学をあきらめるどころか、勉強のやり方さえ身につければ東大にだって行けると信じていました。
このことを思うにつけ、母親の声かけの影響の大きさを思わずにはいられません。
和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長
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