共有を解消する方法は「3つ」あるが…
不動産の共有解消の方法としていちばん簡単なのは、4人で売却して金銭を4等分することです。しかし、思い出の実家は残せません。
次は、共有者が買い取る方法です。たとえば、きょうだいが市川さんに4分の1ずつを売却し、市川さんひとりの名義にすることもできます。姉や兄はまとまった譲渡代金が入りますが、その後の家賃収入は入りませんので、面白くないかもしれません。
建物を度外視し、土地を4つに分ける方法もありますが、土地は間口よりも奥の方が長いため実用的な区画にならず、選択肢とはなりませんでした。
「とりあえず共有」の妥協がはらむ大問題
共有解消は、土地が残せない、家賃が入らないといった、なにかしらの犠牲が必要になりますが、このまま共有を継続しても、課題が増えていく一方です。そのため筆者は、速やかな解決が必要だとアドバイスしました。
市川さんが買い取る案が受け入れられないというのは、恐らく、身内ならではの感情的なものが影響しているのでしょう。それを解きほぐして納得させ、解決まで導くのは大変です。
そのため、今回の選択肢は「全員で売却」が妥当だと判断しました。
市川さんにもそれらを説明し、相続問題を扱う専門家からの提案ということで、ほかのきょうだいに働きかけていくことをお勧めしました。
「よくわかりました。近々ある法事の席で、もう一度みんなに働きかけてみます」
市川さんはそのようにいうと、筆者の事務所をあとにしました。ほかのきょうだいの方々が納得し、トラブルの種を残さない着地となるよう、筆者も見守っているところです。
相続のとき「分けられないから共有」「みんな平等にしたいから共有」という選択がされるケースは多くあります。
相続当初は問題なくても、時間の経過とともに、各相続人の事情は変化していきます。売却したい人と保有し続けたい人で意見がぶつかることもありますし、何より代替わりして子どもに相続されれば、権利を持つ人の数はどんどん増え、先延ばしするほど収拾がつかなくなってしまいます。
相続発生時は「とりあえず」で大丈夫でも、いずれは解決策が見えなくなるため、安易な共有は避けるべきなのです。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
【関連記事】「遺留分」とは…割合や侵害額請求、“注意したいポイント”|相続税理士がわかりやすく解説
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】