申告期限まであと2ヵ月なのに、まとまらない
相続税の申告期限まで2ヵ月半となったタイミングで、Мさん(50代・女性)が相談に来られました。
Мさん一家は、ある「複雑な事情」を抱えていました。そこには、血のつながりを超えた深い情愛がある一方で、遺言書が残されていなかったため、法的な「権利」の主張が前面に出てしまい、家業も家族関係も崩壊しかねない状況に陥っていたのです。
複雑な人間関係:父と娘の「温度差」
今回の相談者であるМさんは、昨年96歳で亡くなった母親の相続について悩んでいました。相続人は、88歳の父親と2人の姉、そしてМさんの計4人です。
しかし、この家族構成には複雑な背景がありました。父親は、亡くなった母親の「実夫の弟」にあたります。つまり、Мさんたち子どもにとっては叔父にあたる存在でした。
実父が早くに亡くなったあと、母親と再婚し、3人の娘たちと養子縁組を結び、50年以上にわたって親子として暮らしてきたのです。そうした事情が相続を難しくする一因となっています。
三女のМさんは、結婚後に家を離れましたが、離婚を機に実家へ戻り、その後は両親と同居を続けてきました。そして、両親とともに祖父が創業した電気工事会社を守り続けてきたのです。
Мさんは両親と過ごした時間が長く、養父との信頼関係も非常に強いものでした。実の父親同然に慕ってきたといいます。
一方、長女と次女は20代で結婚して実家を離れて以降、両親との関わりは限定的でした。そのため、Мさんほど養父との深い信頼関係はなく、「家業を守る」という意識も比較的薄いように見受けられます。
本来であれば、今回の相続では家長である父親が娘たちを説得し、円満に話をまとめるのが理想です。しかし、「育ての親」という立場への遠慮や、娘たちとの微妙な距離感(温度差)もあり、すでに父親が姉2人を説得できる状況ではなくなっているといいます。
相談の背景:守りたい「家」と「事業」
実家は都内にあり、敷地面積は60坪あります。そこは住居であると同時に、祖父が創業した会社の事務所としても使われていました。
資産状況(概算)は以下の通りです。
・都内の自宅(土地評価 約1.3億円) ・建物評価 約600万円 ・預金 約100万円
つまり、「不動産はあるものの、現金がほとんどない」という典型的なケースでした。この状況が、相続の難易度を一気に高めています。
母親は生前、Мさんに「あとは頼んだよ」と口頭で伝え、通帳も預けていました。しかし、正式な遺言書は残されていませんでした。
直面する「家族の亀裂」と法的リスク
母親が亡くなったあと、それまで良好だった姉妹関係に変化が生じたといいます。
別居している長女と次女は、不動産の売却、あるいは法定相続分に相当する現金での分配を強く求め始めました。
長女・次女: 「公平に分けてほしい」 「現金で受け取りたい」
父・三女: 「住み慣れた自宅を守りたい」 「事業を継続したい」
「遺言書がない」という事実は、「遺産分割協議(話し合い)」が絶対条件になることを意味します。
長女・次女が同意しない限り、1円も、1平米も分けることはできません。
感情的な対立は徐々に深まり、気づけばМさんは姉妹のグループLINEから外される事態にまで発展していました。
申告期限というタイムリミットが迫るなか、話し合いは完全に止まってしまったのです。
