代々の地主だからこそ
代々土地を守ってこられた地主様のもとには、今日もハウスメーカーの営業担当者が熱心に通っているかもしれません。
「老朽化したアパートを建て替えましょう」
「今なら低金利で1.3億円の融資が受けられます」
「相続税対策として、これ以上ないご提案です」
先日、ご相談に来られたYさん夫妻(70代)も、まさにそうした提案に心を動かされていました。
しかし、詳しくお話を伺っていくうちに、その提案には大きな「落とし穴」が潜んでいることが見えてきたのです。
財産の構成と相続税
Yさんの相続人は、配偶者と3人の娘さんの計4名です。基礎控除額は5,400万円となります。
保有されている財産は、ご自宅のほか、複数の共同住宅や駐車場、店舗併用住宅など、多岐にわたっていました。
・居住用不動産:広大な敷地を有しており、評価額は約6,200万円
・賃貸用不動産(計4棟):昭和から平成にかけて建築されたアパートや共同住宅で、評価額は合計約1億400万円
・駐車場・その他:駐車場用地や店舗併用住宅などで、評価額は合計約4,800万円
これらをもとに相続税を試算すると、納税額は約2,484万円となりました。
一方で、Yさんの財産の大部分は不動産で占められており、預貯金はそれほど多くありません。相続税を支払うための現金が不足していることも、大きな不安材料となっていたのです。
分析された課題と今後の対策
財産診断を行った結果、Yさんには大きく3つの課題があることが分かりました。
①納税資金の確保
相続税は約2,500万円発生すると見込まれており、納税のための現金をどのように準備するかが重要な課題でした。そのためには、資産の一部を売却しやすい形に組み換えることも含め、早めの対策が必要になります。
②建物の老朽化への対応
所有されている物件の中には、築50年を超える建物や、築30年以上が経過したアパートも含まれていました。今後は修繕費の増加や入居率の低下も予想されるため、建て替えや売却を含めた判断が必要な時期に差しかかっていたのです。
③資産の有効活用
広い敷地や複数の土地を所有されている一方で、十分な収益を生み出せていない不動産もありました。そこで、土地評価を抑えながら収益性を高める「資産の組み換え」を行うことで、相続税対策と将来の安定収入の両立を目指す必要がありました。
今後の方向性としては、法定相続分を意識した分割案の作成や、遺言書の準備を進めることが重要です。また、小規模宅地等の特例を最大限活用し、相続税の負担を軽減する設計も欠かせません。
「相続対策」という名の、終わらない不安
Yさんが特に悩まれていたのは、3棟あるアパートの老朽化でした。
広いご自宅には現在、ご夫婦2人で暮らしています。3人の娘さんはすでに結婚されており、実家を継ぐ予定はありません。
そんななか、ハウスメーカーからは、
「1.3億円を借り入れてアパートを建て替えれば、節税しながら収益も増やせます」
という華やかなシミュレーションが提示されていました。
しかし、70代のYさんには、どうしても拭えない不安がありました。
「この歳で1億円以上の借金を背負って、夜も眠れなくなるのではないか」
「残りの2棟も、いずれ老朽化する。そのたびに借金を増やしていくのか」
「現金が少ないのに、借金だけが増えるのは怖すぎる」
数字の上では“相続対策”に見えても、Yさんにとっては、これからの人生を不安に変えてしまう提案でもあったのです。
