「長生きリスク」で老後資金が使えない
■老後が遠くなる!? 70歳現役時代が到来か
2021年4月より改正高年齢者雇用安定法、通称「70歳定年法」が施行されました。この法改正は、60歳=定年という固定観念が消え、何歳であっても働ける人は働き続ける社会への変化を指し示しています。そもそも「老後」自体が遠くなりつつあるとも言えるでしょう。
以前より企業に65歳まで就業機会の確保が義務化されていたところ、法改正でこの年齢を70歳までに引き上げることが「努力義務」となりました。まだ努力義務とはなっていますが、政府が70歳まで働く社会を目指していることを明確に示すものです。今後は継続雇用の年齢上限を引き上げたり、定年自体を延ばす企業が多くなると専門家は予想しています。
年金受給までの空白期間がなくなったり、より長くいきいきと働ける環境が整えられるのでわたしたちにとって良い面もありますが、考えておくべき現実もあります。定年が5年延びれば、退職金を受け取るタイミングも5年先延ばしになります。退職金を見据えた資金計画を立てていた人は、再度考え直す必要が生じます。
退職金の平均金額自体も年々減少する一方です。厚生労働省の「就労条件総合調査」によれば20年以上勤務した大卒・大学院卒の定年退職者の退職金平均額は1997年には2871万円でした。ところがこの年以降、退職金の平均額は調査のたびに下がり続け、2018年には1788万円となっています。ピーク時から1000万円以上、下がっています。
また、70歳まで働けるといっても、これまでと同じ年収が得られるとは限りません。むしろ、給与収入のピークは定年よりずっと前に来るのが実状です。統計を見ても、日本の大企業・中規模企業における給与収入のピークは50代前半となっています。以降、ゆるやかに給与は下がり続けます。それを前提としたライフスタイルも考慮する必要があります。
何より、気力や体力そして健康面から見てずっと働けるのか、という問題もあります。社会全体では健康寿命はどんどん延びているとはいえ、歳をとればとるほど、病のリスクも高まります。
■女性の2人に1人が90歳まで生きる時代
2020年、日本人の平均寿命は男性81.64歳、女性が87.74歳にまでなり、ともに過去最高を更新しました。女性は世界1位、男性は世界2位の長寿国家です。
しかし、この平均寿命の計算には、0歳〜20歳までになくなられたケースまで含めて計算しているので、意外に知られていませんが成人した人の余命はもっと長くなっているのです。
厚生労働省の令和2年簡易生命表では、後期高齢者と呼ばれる75歳で見ても、男性が75.85%、女性が88.22%の生存率です。男性は4人に3人、女性はなんと10人中9人が75歳まで生きる時代に突入しているのです。
さらに90歳まで長生きされる方は男性で27.18%、女性では51.12%にもなります。
つまり、男性でおよそ4人に1人、女性で2人に1人が90歳まで長生きする計算です。医療の進歩によって寿命はどんどん延びていますから『90歳まで生きるのは当たり前』『100歳超えも珍しくない』という人生100年時代の到来はすぐそこです。
平均寿命をもとにお金を貯めたとしても、長生きすることができれば、お金は不足してしまうことになります。いつまで生きるのかが分からなければ、そのために備えるお金は必要です。だからこそ、老後のためにと貯めたお金はますます使えなくなってしまうのです。
重吉 勉
株式会社日本財託 代表取締役社長
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