(※写真はイメージです/PIXTA)

スミソニアン博物館は魅力的なコンテンツを活かしたPRやショップ運営を含め民間企業の手法を取り入れながら、どう運営するかを議論しています。一方、「民営か、公営か」経営形態の議論に終始するなど日本の博物館の危機が叫ばれています。渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)で解説します。

スミソニアン博物館の経営改革が注目!

冒頭に紹介したスミソニアン博物館がその代表例で、経営改革の事例がよく知られています。スミソニアン博物館は、連邦政府からの財源のほか、寄付金で運営されています。2021年7月には、アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏がスミソニアン航空宇宙博物館の振興に2億ドルの巨額寄付を行い、スミソニアン協会設立以来の最高額だと話題になりました。

 

これほど大きな金額ではなくても、様々な企業や研究機関が博物館の存在意義に対して寄付を行っています。よく、日本との比較で寄付文化の有無が言われることがありますが、むしろ博物館への社会的認知や世間での評価が高く、博物館に寄付することが企業利益だと判断するに足る付加価値が、運営によって提供されていることが大きな要素となっているのです。

 

たとえばスミソニアン博物館群のうち、2009年に公開された映画『ナイトミュージアム2』の舞台となった国立自然史博物館の場合、連邦政府から拠出される予算は厳しく用途が決められています。そこで博物館側は外部資金獲得のため、閉館後の時間を活用して博物館という特別な空間をイベントやパーティの会場として企業に貸し出し、年間百万ドルの寄付を得ています。

 

一方、一般の利用者は入館無料で、クリスマス以外は年中無休、世界中から年間700万人以上が訪れます。こうした一般入場者からは、館内に置かれた募金箱や一ドル館内マップによって募金収入があります。こうした自己資金のうち7割以上の金額が膨大な所蔵品や展示物の維持を支えているのです。

 

企業や地域とのコミュニケーションをとりながら資金を集めるファンドレイジングは、海外の博物館運営において重要な役割に位置付けられています。お金を集めて回るだけではなく、顧客満足度調査による評価をきちんと行い、メンバーシップ制度で一般有料施設の無料入場など支援者をしっかりフォローします。

 

魅力的なコンテンツを活かしたPRやショップ運営を含め民間企業の手法を取り入れながら、連邦政府予算だけでは財源の足りない部分、つまり本来の博物館機能の維持・向上を充足させているのです。日本のような「民営なのか、公営なのか」という経営形態だけに集中した話は、些末な議論であることが分かります。

 

行政の直営で施設が運営される場合、担当者や責任者は施設運営のスペシャリストではないことも多々あります。たまたま人事異動で所管課に配属されたような人でも運営を担うことになるのですから、より良い経営を目指すという点では民間が持つ経営ノウハウに勝るわけではありません。

 

民間企業の側は、完全に民営化するのか委託として請けるのか、事業の形態を含めて競争し、博物館や美術館の運営スペシャリストとしての実績を作っていけばよいのです。そして、より良いサービスを地域の住民や利用者に提供し、公的に意味のある施設運営を寄付者に支えてもらえるようになれば理想的です。

 

現在、公立博物館などの運営についての民営化の判断は、基本的には施設のある自治体の首長が決定していく事柄ですが、単にコスト削減を言っているのなら注意が必要です。本当に優れた経営を行えるから民間委託をする、それが地域の発展にも資するのだということを明快に説明できる首長さんがいる自治体では、施設が無駄にならないで済みます。

 

すでにある公共施設をただそこにあるまま維持していくよりも、地域の人々や国民全体にとって、学問や教育の分野で大きな財産としていく方が建設的です。公営か民営かを話題にするのではなく、より良いサービスや面白いイベントとその意義が話題になっていく方が、長い目で見て教育を下支えし、学問を元気にすることにつながるのです。

 

渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト
早稲田大学招聘研究員

 

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※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

渡瀬 裕哉

ワニブックス

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