(※写真はイメージです/PIXTA)

老朽化を理由に「賃料12年分の立退料」を提示し立退きを求めたビルオーナー。しかし裁判所は「正当事由として認められない」と驚きの判断を下しました。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

裁判所が「正当事由」を認めなかったワケ

この結論を導いた判断の内容は以下になります。

 

1.賃貸人および賃借人がそれぞれ建物の使用を必要とする事情について

 

「賃借人は、スクーバダイビングに関する業務(スクール、ツアーや、これに関係する物品販売等)を行う会社であり、本件各建物を賃借した後、これらを旅行業務のカウンター、ダイビングサロン、レクチャールーム、事務所等に使用していたこと、

 

平成15年1月ころ、賃貸人の承認を受けた上で、本件建物1の改装工事を行い、飲食店の営業を開始したこと、現在は、本件建物1を飲食店として、同2、3および6をダイビングスクール、サロンおよび倉庫として、同4および5を事務所として使用していることが認められる。

 

また、賃借人の店舗、ダイビングスクール等の移転先の確保が容易であることの立証はない。そうすると、賃借人が本件建物1~3および6を使用する必要性の程度は高いということができる。」

 

「これに対し、賃貸人は、本件ビルを取り壊す予定であり、本件建物1~3および6を使用する必要性がないことは明らかである。(本件ビルの建て替えの必要性については、後記(4)で検討する)」


 

2.賃貸借に関する従前の経過について

 

「賃借人が本件建物1および2を平成5年に、同3を平成7年に宮川不動産から、同6を平成12年に賃借人から、それぞれ賃借し、その後現在に至るまで営業のために使用していること、平成15年1月ころに本件建物1の改装工事を行い、飲食店の営業を開始したこと、賃貸人が、平成16年8月に賃借人に本件内容証明郵便を送付して、本件建物1~3の明渡しを求めたことは上述のとおりである。

 

「また、上記改装工事は、工事期間を平成15年1月下旬から2月末までとし、本件建物1の従前の内装を全面的に解体撤去して、軽鉄、木工、左官、防水等の建築工事や、空調、電気、給排水等の設備工事を行うものであり、

 

①賃借人は、賃貸人に工事内容を説明し、その承認を受けた上で、施工をしたものであること

 

②賃貸人は、本件内容証明郵便を送付するに当たり、事前に、賃借人を含めた本件ビルの賃借人に対して、本件ビルには老朽化、耐震性等の問題があり、解体撤去する方針であることを説明したり、賃借人の側の要望等を聞いたりすることはなく、唐突に本件内容証明郵便を送付して本件各建物を平成18年10月末までに明け渡すよう求めたこと

 

③その後、賃貸人と賃借人の間で本件各建物の明渡しに関する交渉が進められ、賃貸人が移転先の候補となる物件を賃借人に紹介するなどしたが、賃借人の希望に合致するものはなく、結局、賃貸人と賃借人は本件各建物の明渡しにつき合意に達するに至らなかったことが認められる。」

 

「賃借人においては、賃貸人が改装を承諾したことから、今後も当分の間(少なくとも改装費用を飲食店の営業利益により回収することのできるまでの間)は、本件建物1~3および6を使用し続けることができると期待していたと考えられるところである。

 

そうすると、本件内容証明郵便の送付から明渡期限まで2年余りの期間があることや、賃貸人が賃借人の移転先の紹介に努めたことを考慮しても、賃貸借に関する従前の経過から正当事由の存在を肯定すべき事情を見いだすことは困難と解される。」

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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