(※写真はイメージです/PIXTA)

老朽化を理由に「賃料12年分の立退料」を提示し立退きを求めたビルオーナー。しかし裁判所は「正当事由として認められない」と驚きの判断を下しました。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

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“家賃12年分の立退料”は「正当事由」にあたるか

老朽化して耐震性等に問題が生じている賃貸ビルの場合、ビルの所有者としては、耐震工事等を行って現状を維持するか、賃借人をすべて退去させて建て替えるか、という選択を迫られることとなります。

 

仮に建て替えるという選択をする場合、入居している賃借人との間での合意解約等の交渉が必要となります(なお、建替期間中だけ一時的に移転をしてもらうという交渉もありますが、いずれにしても従前の賃貸借契約の解消等は必要になる場合が多いです。)。

 

賃借人との間で、退去に向けて合意解約の交渉が首尾よく進めば問題は無いですが、賃借人が解約に応じない場合は、一般的には期間内解約は不可能なため、契約期間満了時において解約申入れおよび更新拒絶をして、退去を求めるということとなります。

 

もっとも、この解約申入れおよび更新拒絶には「正当事由」が必要である、というのが借地借家法の規定です。

 

正当事由があるか否かは、「賃貸人および賃借人がそれぞれ建物の使用を必要とする事情のほか、賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況およびその現況並びに賃貸人による立退料の支払の申出を考慮して判断すべきものである。(借地借家法28条)」とされています。

 

この判断について、どのような事情があれば正当事由が認められるか、ということは、ケースバイケースの判断になるため、具体的な裁判の事例を参考にして見通しを立てる必要があります。

 

そこで、今回は、ひとつの参考事例として東京地方裁判所平成18年10月12日判決の事例を紹介します。

 

この事例は、

 

・築45年以上の鉄筋コンクリート7階建ての賃貸ビル

・老朽化が進んでいたため、建て替えを理由として、賃借人に解約申入れ

・立退料として賃料の12年分(7,610万円)の提供を申し出た

・賃借人は、複数のスペースを借りて、飲食店やスキューバーダイビングスクールの店舗として利用していた

 

という事例です。

 

裁判所は、結論として、「正当事由は認められない」と判断して、賃貸人側からの明渡しの請求は否定しました。

 

賃借人側が営業のために使用を継続する必要性が高いこと、賃貸人からの明渡通知の1年前に賃借人が改装工事を行っていたこと、耐震診断の結果の信ぴょう性に疑問があることなどを認定し、立退料の金額について検討するまでもなく、正当事由が否定されました。

 

賃貸人側にとっては酷な判断結果となっていますが、老朽化ビルについてのひとつの判断事例として参考となるものです。

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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