(※写真はイメージです/PIXTA)

老朽化を理由に「賃料12年分の立退料」を提示し立退きを求めたビルオーナー。しかし裁判所は「正当事由として認められない」と驚きの判断を下しました。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

裁判所「立退料の額については"立ち入るまでもない"」

4.立退料の提供について

 

「立退料等の金員は、あくまでも、解約申入れ又は更新拒絶に際しての賃貸人の事情と賃借人の事情を比較衡量した結果、建物の明渡しに伴う利害得失を調整するために支払われるものである。

 

すなわち、その比較衡量の結果、正当事由を認めるには必ずしも十分ではないものの、立退料が支払われれば不十分さが補完される場合には、これにより双方の利害得失が調整され、正当事由が具備され得るのに対し、そもそも正当事由を認めるべき事情がなく、又はわずかしか存在しない場合には、立退料による調整は働かず、その支払により正当事由が具備される余地はないと解される。

 

本件においては、本件建物1~3および6を使用する必要性は、賃貸人よりも賃借人の側がはるかに高いこと、賃貸借に関する従前の経過に照らしても、正当事由の存在を肯定すべき事情は見いだし難いこと、本件ビルの老朽化や耐震性に関する賃貸人の主張も採用することはできないことは、上述のとおりである

 

そうすると、立退料の額の判断に立ち入るまでもなく、立退料の支払により正当事由が補完されるとの賃貸人の主張は失当というべきである。」

 

5.結論

 

「以上によれば、賃貸人の解約申入れおよび更新拒絶に正当事由があると認めることができないから、その余の点について判断するまでもなく、本件建物1~3および6の明渡しを求める賃貸人の請求(本件建物1については主位的請求および予備的請求)は、いずれも理由がない。」

 

(建物の概要)

一棟の建物の表示

所在渋谷区〈住所略〉

構造鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根7階建

床面積1階726.64平方メートル

2階726.64平方メートル

3階502.01平方メートル

4階502.01平方メートル

5階502.01平方メートル

6階502.01平方メートル

7階502.01平方メートル

 

※この記事は2020年4月5日時点の情報に基づいて書かれています(2022年3月10日再監修済)。

 

 

北村亮典

弁護士

こすぎ法律事務所

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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