(※写真はイメージです/PIXTA)

今、デジタル広告料は、多くのブランドにとって顧客獲得の手段として非現実的な水準にまでつり上がっています。リアル店舗は、商品流通チャネルからメディアチャネルへと変容し、パンデミック後の世界では、メディアチャネルとしての役割がますます重要になると指摘します。なぜでしょうか。ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。

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    フェイスブックの広告料は2倍以上に上昇

    フェイスブックの広告料金は、2017年から2018年にかけて、なんと2倍以上に上昇している。すでに2018年の段階で、小売業界はデジタル広告の支出増に対して、それに見合った収益が確保できなくなっている。それもそのはずで、消費者は終わりのないデジタル広告の大河を泳がされ続けている現実に気づいてしまったからだ。

     

    パンデミックの影響で広告費用の上昇ペースは多少緩やかになったとはいえ、ひとたびトンネルの出口の光が見え始めたら、ブランド各社は再び広告支出を強化して市場に攻勢を仕掛けるのではないか。長期的には、新規顧客の獲得手段としてのデジタル広告は目玉が飛び出るほどに跳ね上がり、そのくせ、効果は大して期待できないツールになっていくことは確実である。

     

    パンデミック前のニューヨークでは、グロッシアー(Glossier)やシュプリーム(Supreme)、キス(Kith)といった新進の人気ブランド店舗で行列を見かけることは珍しくなかった。オーストラリアのメルボルンでも、ストリートファッションブランドのカルチャーキングス(Culture Kings)の商品を買おうと、何百人もの買い物客が開店前から何時間も並ぶ光景が見られた。2019年に東京を訪れた際も、原宿や渋谷のシックなショップの前にはたくさんの若者らが根気よく行列に並んでいる姿を目にした。

     

    実店舗は、単に強力なメディアチャネルになるだけではない。極言すれば、これほどまでに管理しやすく、実際に手にとって触れることができ、しかも効果の測定が可能なメディアチャネルがほかにあるだろうか。デジタルメディアの場合、消費者が本当に関心を持っているとか熱中していると判断するには疑問の余地がある。一方、実店舗は消費者による実際の来店や体験参加というかたちで具体的に確認できる。直接、親密につながり合うことができる。

     

    ただし、新型コロナウイルスに絡む不透明感があるので、実店舗のメリットが短期的には影響を受ける可能性はある。だが、長期的に見れば、ほぼ確実にこの実店舗のメリットが発揮される。パンデミックによって、実店舗での体験の価値が葬り去られることはない。恐らく私たちはかつてないほどに、身体的・社会的相互作用、つまり身体的に手応えを感じたり、対人関係や交流を味わったりすることを切望するようになるが、そのニーズを満たす手助けができる場こそ、小売店舗なのである。

     

    ただし、パンデミックを機に、こうした体験の質が大きく問われるようになる。消費者が並々ならぬ期待を寄せるからだ。EC化は、これから2年以上にわたって加速していく。消費者がそれに慣れていけば、実店舗で味わう体験の良しあしに関して、はるかに目が肥えていくことは間違いない。

     

    言い換えれば、小売業者にとっては、これまで「店」と呼ばれてきたスペースの新たな活用方法を見つける必要があるのだ。

     

    ダグ・スティーブンス
    小売コンサルタント

     

     

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    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

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    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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