日本では、今日も各地で大規模な開発が進み、新たな建築物が建設されている一方、古くからの歴史ある建物が取り壊され、失われています。歴史ある建物は、保存だけではなく活用することで、地方創生にもつながる可能性があるのです。本記事では、歴史的建築物の再生・活用を中心に活躍する一級建築士の鈴木勇人氏が日本における「新築信仰」の背景について解説していきます。

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建築の理解が浅く、建物の文化的価値を知らない日本人

このように歴史的価値のある建築物に関して、すでに解体された、あるいは解体の予定があるというケースは枚挙にいとまがありません。なぜ日本では、新しい建物が次々に建設され、貴重な建物がこれほどまでにあっさりと姿を消してしまうのかについては、理由はさまざまです。

 

一つには、経済効果です。新しい建物ができると、多くの人たちが集まるようになり、雇用も生まれてきます。分かりやすい例が、大阪の「あべのハルカス」や東京の「東京スカイツリー」です。この二つの建物の登場によってまちの雰囲気も変わりました。

 

あべのハルカスのある大阪市阿倍野区や東京スカイツリーのある墨田区は、どちらもかつては下町的雰囲気をもつエリアでしたが、より洗練されたお洒落なイメージがそこに加味されたのです。

 

こうしたインパクトのある建物が登場すると、経済的な刺激も大きくなります。あべのハルカスや東京スカイツリーのようなランドマーク的な建物に限らず、地方では「イオンモール」が一つできるだけで地域経済に大きな刺激を与えます。新しい建物は経済をまわす働きがあるのです。

 

また、日本人は新しい建物を好むといった面もあるといえます。規模の大きな建築物もそうですが、マイホームに関していえば、それはより顕著となります。「信仰」ともいえる新築へのこだわりが日本人にはあるのです。

 

総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、日本の総住宅数は6240万7000戸です。そのうち持ち家は3280万2000戸。持ち家率は61.2%です。

 

持ち家のうち新築で建てたもの、新築住宅を購入したもの、建て替えしたものを合わせると7割近くにのぼります。平成28(2016)年から平成30(2018)年9月にかけて建てられた住宅に関しては建て替えも含めて9割以上が新築住宅です。

 

新築住宅を好むということは、中古住宅が視野に入っていないことを意味します。これは住宅以外の建物に対しても反映されており、古い建物が次々に消えていくことにつながっていると私は考えています。

 

さらにいえば「建築文化への理解」がまだ日本では進んでいないということも指摘できます。文化としての価値に気づかないため、失われたとしても「痛み」を感じないというわけです。また、文化的価値は認めたとしても、多額なお金をかけてまで守る必要はないという判断があるのかもしれません。

 

本当はお金をかけてでも守りたいものの、現実的に「ない袖は振れない」というケースもあります。ユニチカ記念館はまさにそれに該当します。実際に維持費や改修費を捻出できずに解体されたケースも星の数ほどあるのです。

 

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地方創生は古い建築物を見直せ

地方創生は古い建築物を見直せ

鈴木 勇人

幻冬舎メディアコンサルティング

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