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日本が「コンクリートから人へ」で失ったもの
日本ではかつて「コンクリートから人へ」のスローガンのもと、公共工事が白眼視されたことがあります。コンクリート(公共工事)に国の予算を費やすのではなく、人(社会福祉)につぎ込むべきとの考えです。
社会福祉はもちろん大切ですが、公共工事を抑制することの弊害は決して小さくはありませんでした。公共工事の主な目的はインフラの整備です。道路や河川、ダム、上下水道、公園、教育施設、医療施設、公共住宅、区画整理などを通して人々が安心・快適に暮らす地域づくりを進めていくものですが、それだけではなく、さまざまな波及効果も生み出します。雇用の創出やそれにともなう所得の向上、ひいては地域経済の活性化がいい例です。
例えば公共工事の抑制によってダムの建設や河川の改修がストップすると十分な治水対策が取れなくなります。大きな水害が起きた場合の被害は大きく、経済的損失や人口の流出を招いてしまいます。公共工事はそうした事態を防ぐ役割も果たします。
熟練の技術者・職人たち「生活していけなくなった」
「コンクリートから人へ」によって建設業界が受けた大きな痛手は、熟練の技術者・職人たちがごっそりと減ったことです。理由はシンプルで「生活をしていけなくなったから」です。
公共工事の投資減にともなって民間工事も減ったため仕事がなくなり、他の業界に移らざるを得なくなったというわけです。私の知る職人のなかにも農業を始めたり、建築とは無関係の会社に転職した人たちがいました。彼らがもっていた技術は継承されることなく消えていきました。また「子どもたちには継がせたくない」と家業を畳む職人も全国で数多く見られました。
こうしたことも後継者不足の一因となっています。「建設業では食えない」となると、そこで働こうとする若者は当然減っていきます。今の話は一般的な建設業に関するものですから、歴史的建築物を扱う特殊な分野においてはなおさらです。
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