日本では、今日も各地で大規模な開発が進み、新たな建築物が建設されている一方、古くからの歴史ある建物が取り壊され、失われています。歴史ある建物は、保存だけではなく活用することで、地方創生にもつながる可能性があるのです。本記事では、歴史的建築物の再生・活用を中心に活躍する一級建築士の鈴木勇人氏が日本における「新築信仰」の背景について解説していきます。

新築信仰が生まれたきっかけは、戦後の住宅不足

ここで日本人の新築信仰の背景について触れておくことにします。日本は敗戦後、深刻な住宅不足に陥りました。空襲によって数多くの住宅が失われたことに加え、日本の占領地等に暮らしていた日本人たちが引揚者として大量に帰国したことが主な原因です。軍人・民間人を合わせた帰国者の数は500万人以上にのぼりました。また、「建物疎開」といって、空襲時の類焼を防ぐために強制的に解体された建物も数多くありました。その数は60万戸以上にのぼります。

 

そうしたこともあり、当時の日本は420万戸もの住宅が不足していたのです。

 

そこで国では「質より量」を追求し、安普請の住宅を大量に供給するという政策をとりました。「雨露をしのげるだけマシ」とは言い過ぎになるかもしれませんが、戦後の貧しい時期には食べることが優先され、快適な居住空間などは二の次だったことは容易に推測できます。

 

それまでの日本人は多くが借家住まいだったのですが、国は持ち家政策を進めて、住宅ローンが組めるように制度を整えました。そのことで日本人の人生の目標の一つとして「マイホーム」が掲げられたのです。

 

その後、日本は高度経済成長期を迎えましたが、今度は大都市部への人口流入が始まり、ここでも住宅不足が続きました。戦後のベビーブームによる人口増大もそれに拍車をかけたといえます。

 

質より量を追求した結果、日本の住宅は長持ちをするようにつくられることなく、年数のたった中古住宅は「買っても長くは住めない。だったら最初から新築を買おう」と敬遠されるようになったわけです。日本の住宅の平均寿命が欧米諸国に比べて短命といわれるのは、このためです。

 

それにより、住宅そのものに資産価値を見いだす風土が育まれることなく、家屋の建っていない更地のほうが資産としての価値が高いという独特の市場が形成されるようにもなりました。

 

日本は少子高齢化を迎え、もはやどんどん住宅を供給しなければならないという切迫した状況ではなくなっています。国としても「量より質」へと住宅政策を転換していますが、それまでの経緯もあって、まだまだ日本人のなかには新築信仰が根強く残っているというわけです。

 

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地方創生は古い建築物を見直せ

地方創生は古い建築物を見直せ

鈴木 勇人

幻冬舎メディアコンサルティング

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