(※写真はイメージです/PIXTA)

「クールジャパン」は日本の文化やポップカルチャーなど、外国人がクールととらえる日本の魅力を発信し、日本の経済成長につなげるブランド戦略です。アベノミクスの柱、成長戦略のひとつでしたが、明らかに失敗しているといいます。渡瀬裕哉氏が著書『無駄(規制))やめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)で解説します。

アニメ産業は2兆5000億円の市場規模

政府がわざわざこんなことをしなくても、令和2年(2020)のアニメ産業は2兆5000億円もの市場規模を誇ります。政府が育ててきたのではなく、見た人が「面白い」と思うからです。

 

筆者が国際会議に出席したとき、懇親会時にギターを持ったネパール人の参加者から「今から『NARUTO』の主題歌を歌うから、それが正しいかどうか判定しろ」と言われて、こちらが日本人だというだけで審査員役にされてしまう状況になったことがあります。

 

正直いって正確さは分かりませんでしたが、彼は楽しそうでした。海外の人たちも、官制の展示会から取り入れたのではなく自分で作品を見て「面白い」と思うから、紹介が紹介を呼んで広がるのです。世界に広がっている日本のアニメ文化は「民」が作ってきたものなのです。

 

政府が口を出さなくても、文化は勝手に広がっていきます。税金を使って予算を付けなくても、面白いものは市場で勝手に売れます。そして、何がこれから人気となって売れるのかは、誰も正確には予測できないのです。

 

政府は不確かなものに予算を付けることができないので、昔から続いているシリーズもののようなコンテンツだけを海外に宣伝したりします。すると、今度は若いクリエイターがこれまでにないような作品を海外に打ち出すことができなくなったり、やりにくくなったりします。これでは逆効果です。

 

では、政府による文化政策がまったく無意味なのかというと、そうではありません。政府にしかできない仕事があるのです。国家の意思として、「日本国がこうした価値観をもって海外に発信することで、国際社会でどのようなイメージになりたいか」を打ち出すことです。

 

たとえば、諫山創さんの『進撃の巨人』は、電子版も含め約180か国・地域で1億部超えの累計発行部数となっている世界的な人気作品です。アニメシリーズもヨーロッパやアメリカを中心に人気を博し、シリーズの公開時にはアニメ視聴サイトがアクセス集中でダウンするほどの現象も起きています。ところが、中国のように作品の放送を禁止している国もあります。

 

そういう規制を行う国々に対して、「我が国は表現の自由があり、全世界の表現の自由を促進するのだ」というメッセージを出すというのなら、まだ政府の文化政策として意味があるかも知れません。

 

クールジャパンの失敗は、単に外国人受けしているからという理由でアニメやゲーム、ファッションなど、市場で評価されているものを何となく並べて、「ほら、日本はすごい国でしょう」と言っているに過ぎないこと、そういう無意味なことに税金を注ぎ込んでいることにあります。

 

単に市場でウケているから海外に持っていきましょう、程度のことなら、民間でも十分できることなので政府が行う必要性はありません。すでに輸出されているコンテンツ、しかも市場で売れているものに対して「政府が認めてあげる」など、単なる便乗です。せっかく面白かったものも、陳腐にしてしまいかねません。

 

表現方法はポップカルチャーでも、センスの良い作品には哲学や政治思想が背景にあるものです。そうした作品が海外に打ち出され、国や人種の枠を超えて世界に受け入れられていくことに対して政府が介入すること自体、自由な思想への介入そのものです。政府として何を扱うか、あるいは何を扱わないかが決められることになるからです。

 

最近は、青少年を保護するためという名目で、政府は色々な規制もしようとします。自分の子供に何を見せ、何を見せないかは家庭の問題です。家庭生活の一部なのですから、政府が立ち入ることではありません。

 

すでに市場で成功しているものに対して、政府が優劣を付けるような愚かな政策を行わない限り、新しい芽はどんどん出てきます。クールジャパンは、政府が手出し口出ししないことで、もっとクールになるのです。

 

渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト
早稲田大学招聘研究員

 

 

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※本連載は渡瀬裕哉氏の著書『無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和』(ワニブックス)から一部を抜粋し、再編集したものです。

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

無駄(規制)をやめたらいいことだらけ 令和の大減税と規制緩和

渡瀬 裕哉

ワニブックス

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