高齢となった地主の男性は、資産の承継について思い悩んでいました。その内容は「全財産を長男に相続させる方法」。この令和の時代に、妻・二男・長女というほかの相続人には、まったく思いが及んでません。しかし、相続人たちの胸の内を聞いてみると…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。
【関連記事】兄、独居の母へ仕送り20年…近居の弟、豪邸建築の「藪の中」【相続のプロが解説】
高齢となった地主が、相続の相談のため来訪
今回の相談者は70代の山田さんです。山田さんは代々続く農家の跡取りでした。子ども時代は同じような家が多くありましたが、その後は区画整理により所有地は大きく減少しました。しかし、駅の近くに複数の土地や収益不動産を所有していることから、不動産賃貸業でかなりの収入を上げています。
不動産賃貸業を自身の手で行ってきた山田さんですが、還暦を迎えたあたりから、会社員の長男に少しずつ任せるようになりました。また長男も、不動産経営の勉強に励んでいます。
山田さんは、これからの相続を見据えて相談に乗ってほしいと、長男を伴って筆者のもとに訪れました。
山田さんの家族構成は、妻、そして長男・二男・長女の3人の子どもたちがいます。子どもたちは全員会社員で、結婚して家を出ています。
「えっ、なんで分割するんですか?」
筆者は山田さんに事前に依頼して持参いただいた資料をもとに、資産構成と資産額を確認したところ、相続税の申告が必要だとわかりました。しかし、いくつかの特例を利用することで節税は可能です。
「遺産分割で揉めないようにするためにも、遺言書の作成がお勧めですね」
筆者がそのように伝えると、山田さんは驚いて声を上げました。
「えっ、なんで分割するんですか? 父の財産は長男の私が全部受け継ぎましたよ? 最初から長男名義にしたほうが手間も費用もかからないのではありませんか…」
山田さんは、農家ではこの考え方が一般的だと力説しました。長男も、父親の隣でうんうんとうなずいていました。
筆者は、その配分では配偶者の特例が使えず節税にならないことを前置きしたうえで、一般的な相続での遺産分割について説明したのですが、まったく共感できないようでした。
「妻は長男より先に亡くなります。二男は嫁の親と同居です。長女は他家に嫁いで苗字も変わっています。だから、財産は不要でしょう?」
「長男は山田家の跡取りなのです。これまでも不動産の管理を手伝ってくれましたし、長男へ継がせるという以外、考えたこともありません。家族はだれも反対しませんでしたよ…?」
次第にトーンダウンしてきた山田さんは、筆者の勧めにしたがい、ほかの家族の意見も聞くことになりました。
【12/18(木) 『モンゴル不動産セミナー』開催】
坪単価70万円は東南アジアの半額!! 都心で600万円台から購入可能な新築マンション
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例