(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢となった地主の男性は、資産の承継について思い悩んでいました。その内容は「全財産を長男に相続させる方法」。この令和の時代に、妻・二男・長女というほかの相続人には、まったく思いが及んでません。しかし、相続人たちの胸の内を聞いてみると…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

「財産の件はどうでもいいです。その代わり…」

その後、山田さんご家族、山田さん、山田さんの妻、長男、二男、長女の全員であらためて来ていただきました。

 

筆者から「山田さんのお考えが基本にはなりますが、不満や争いになると困るので、皆さんのお気持ちを聞かせてください」と話すと、二男が重い口を開きました。

 

「うちでは父のいうことは絶対ですから、この件は口をはさむ余地はないと思っていました。だから、私は何もあてにしていません。ただ、父がいなくなったら、兄が家族を連れて実家に戻る予定だと聞いています。でも、兄の奥さんと母は折り合いが悪いのです。もし母が兄の家族とうまくいかなくなったら…。私も妹も、配偶者の両親と同居しているので心配です…」

 

末っ子の長女も口を開きました。

 

「子どものときからずっと、この家は長兄のものといわれてきました。正直、扱いに差はあったと思います。父がいうように私は家を出た身ですから、財産の件はどうでもいいです。その代わり、両親のことは兄が責任を持って最期までみてほしい。それだけです」

「家族の気持ちをわかっていなかったということです」

山田さんは、二男と長女の言葉を聞いて、愕然とした様子でした。

 

その後、妻や長男からそれぞれ「家族で争いたくない」「自分の考えを押しつけてしまうのは避けたい」という言葉がでました。

 

「みんなの気持ちを聞けて本当によかった。あのままでは〈争ってくれ〉といわんばかり遺言書になるところだった…」山田さんはつぶやきました。

 

各自の希望をまとめると次のようになりました。

 

●妻 :住み慣れた自宅がほしい、長男家族との同居は避けたい

●二男:受験を控えた子どもがいるため、固定収入の得られる駅前の駐車場がほしい

●長女:まだ子どもは小さいが、これからの進学費用が賄える程度の現金がほしい

 

山田さんはポツリと、「ほかの家族の気持ちを、なにひとつわかっていなかったということですね…」といいました。

 

山田さんは、家族それぞれの希望を聞いて遺言書を作成することにしました。そして、長男もそれに納得しました。

 

妻には自宅と預貯金。長男には、複数のテナントが入っている駅前のビルと、同じ駅前の店舗の2ヵ所の不動産。二男には、駅前の広めの駐車場。長女には預貯金と隣駅の小さい駐車場です。

 

今回のように、相続人がだれかひとりに全財産を継がせたいといった、偏った希望をもつ場合、ほかの相続人からの反発が起こる可能性は極めて高いといえます。遺言書を残して手続きができたとしても不満が残ります。いまでは、法定割合できょうだいは平等なのです。

 

親が旅立ったあとも、親族間の円満な関係を維持するには、相続時に問題を残さないことが大切です。だからこそ、財産を持つ親の役割は大きいといえます。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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