1人あたりの診察時間は短いのに患者との信頼関係を築ける秘密

一次医療圏で総合型医療を提供する無床診療所の事例から【中編】

1人あたりの診察時間は短いのに患者との信頼関係を築ける秘密
(※画像はイメージです/PIXTA)

彩のクリニックは、外来患者が1日平均600人に上り、当然、1人当たりの診察時間は短くなります。それでも医師たちは患者との信頼関係を築くことができるといいます。それはなぜでしょうか、医療法人社団三友会彩のクリニックの実例を紹介します。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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    1人当たりの診察時間は短いのに信頼を生む理由

    (2)医師は【患者の理解者】であること

     

    患者は、医師が患者自身を理解し、治療してくれることを望んでいる。いまや受診は3分診療と言われ、医師による患者一人当たりの診察時間は短い。さらに、患者の顔を見ないでパソコンの画面を見ている医師の問題が取り上げられている。

     

    彩のクリニックでも患者が多いため、1人当たりの診察時間は短い。しかし、医師は診察中に患者の話を笑顔でよく聞き、患者が旅行に行った話、孫や子供の話を含め、患者から話されたプライベートの内容をカルテに記入している。そして、次回の受診の際、医師は、「旅行はどうだった?」「お孫さんは元気?」と話しながら血圧測定を行う。

     

    また、金銭的、精神的な患者の状況を把握し、各々の患者が抱える状況を考慮して治療や処方に反映させている。患者の情報は漏れなくキャッチして、治療や関係性の構築に活用してるのだ。「先生は私のことを色々わかってくれている」との患者の発言には、医師への信頼と安心が伺える。

     

    患者の把握は医師だけではなく、看護師や受付などすべてのスタッフが行い、情報を医師にあげている。例えば、あの患者は最近化粧をしなくなった、入れ歯をしなくなったなど、患者の変化や家族からの情報も医師に伝えられる。その細かい洞察が患者の理解につながっている。

     

    受診において、患者の待ち時間は長いため、医師は患者の顔を見るとすぐに「待たせて申し訳なかったね」と謝罪していた。患者は、自分が長い時間待っていることを医師が知ってくれているとの思いから、「先生は人気があるからいいんだよ」と答えていた。

     

    子供の病状に関する問診において、医師はどんな小さな子供に対してでも、親ではなく子供に尋ねている。親は口出しせず、子供と医師とのやりとりを笑顔で聞いて見守っている。診療後には、ご褒美としておもちゃが渡される。ただ渡すのではなく、「このおもちゃは良い子だからもらえるんだよ」、「勉強頑張っている子だからもらえるんだよ」と医師が子供に伝えると、子供は嬉しそうにうなずいていた。これらは、親の信頼につながっている。

     

    (3)家族や知人など【身近な人の評判】

     

    多くの患者は家族や知人からの評判を聞き、勧められて来院していた。親類の紹介により、遠方ながらも県外から通院し継続受診しているケースも多い。通院している患者の話を聞くと、診療所のような地域に密着している医療機関の場合、自分を知る家族からの個別情報、ご近所の人からの情報、患者自身を良く知る知人の情報は信頼性が高いことが伺える。

     

    また、待合室では、患者同士が診療所もしくは医師に関する情報交換、治療の方法、病気に関する情報、他の医療機関に関する情報を交換している。待合室での患者同士の忌憚のない会話は、病気を持つ患者、家族など、同じ状況に置かれる者同士の信頼できる情報である。

     

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    患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

    患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

    杉本 ゆかり

    千倉書房

    「患者インサイト」とは、患者が心の奥底で考えている本音であり、医療に関する意思決定である。この患者インサイトを明らかにすることで、患者への情報提供や情報収集など、患者との効果的なコミュニケーション理解できるよう…

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