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「IT企業のメンタル不調者数」は想像以上に多い
厚生労働省は、労働安全衛生調査(実態調査)で、メンタルヘルス不調により連続1ヵ月以上の休業をした労働者または退職者がいた事業所の割合を調べています。一人でもいた割合なので、事業所規模が大きくなるほど割合は高くなります。ですから、業界の現状を正確に反映しているかどうかは議論の余地がありますが、どの業界にメンタルヘルス不調の人が多いかを調べる参考にはなります。
それによると、2018年の全事業所平均は10.8%でした。業種別に見ると、IT企業を含む情報通信業が圧倒的に高く25.8%となっています。次に多い製造業が13.3%、サービス業が13.1%で、IT企業はこれらの倍近い値となっています。
実際、私たちがストレスチェックを行っている企業でもIT系のメンタルヘルス不調は際立っている印象があります。
年齢とともに「やりがい感」が落ちやすい業界
他業界と比べるとIT業界では技術の陳腐化が早く、数年前の知識や技術が役に立たなくなることが多いという現状があります。
若いうちは、新しい技術の吸収力も高く、もともと技術的なことが好きでIT業界に入る人が多いわけですから、学ぶことも楽しいし、学んだ技術で実際にシステムが動くところを見るのもやりがいにつながります。
ところが新しい技術が生まれ、年齢的に吸収力が低下していくので、業務の内容も技術的な仕事から、コミュニケーションやマネジメント系に移行します。そうなると新しい技術を習得する時間がさらに減り、中堅クラスにもなるとプログラムを作るといった仕事は時間的にもスキル的にも難しくなる人が増えてくることになります。
例えば、先端技術を駆使したシステム開発などではなく、保守、管理、運用などの仕事に就くことが多くなったり、なかには営業に変わったりする人も出てきます。これらの仕事の価値が低いと思う人はいないですが、もともと技術者としての仕事を希望して業界に入ってきた人が多いため、どうしてもやりがい感が落ち、モチベーションが下がることになります。
中堅、若手…「メンタル不調に陥る社員」のパターン
IT企業の50代以上の社員で保守、管理、運用の仕事に就いている人のストレスチェックから見えてくるのは、ストレス増強要因がほとんどないにもかかわらず、メンタル不調に陥っている人が意外に多いという事実です。
システム保守、管理、運用に従事している人の話を聞くと、「システムはトラブルがなくてあたりまえという考えが常識で、正常稼働時には誰からも感謝されたり、褒められたりすることはありません。しかし、ひとたびトラブルが発生すると、直ちにオンコールで呼び出され、速やかにトラブルを解決しなければなりません。それでも、100%復旧するのは当たり前で、ユーザーから叱られることはあっても、感謝されないし、褒められることもまずない」という声をよく聞きます。
つまり、仕事のモチベーションが落ちた状態であり、個人のストレス対処能力に関わる「前向き度」のうち有意味感が落ち込んだ状態です。また「こんな仕事をいつまで続けるのだろうか」と、先行きの不透明感を感じて把握可能感がへこんだ状態ともいえます。
これは、50代以上のIT業界の方がメンタルヘルス不調に陥る典型的なパターンですが、若い人でもメンタルヘルス不調に陥っている人はけっこういます。例えば客先常駐で自社にいることがほとんどない人で、いわゆる「自分の職場」がどこなのかが曖昧になっている人たちです。
こうした人たちは、ストレス増強要因(ストレスを強めるマイナスの要因)の一つである「人間関係の難しさ」を強く感じているうえに、緩和要因(ストレスを感じにくくさせるプラスの要因)の一つである「周囲の支援」が希薄で、二重にストレスを感じていることになります。
あるいは若い人でも、最近の技術革新の速さに戸惑い、「はたして自分はこの変化にいつまでついていけるのだろうか」「自分が学んだ技術が来年には必要とされなくなるかもしれない」という把握可能感や処理可能感の落ち込みによって、メンタルヘルス不調に陥っている人もいます。
こうしてみるとIT業界は時代の最先端にいて変化が早く表面化しやすいだけで、多くの業界でも少し遅れて現れてくる可能性があります。業務による直接的なストレスだけでなく、ストレス対処能力の落ち込みやCOVID-19による先行き不安などが原因の、緩慢なメンタルヘルス不調が潜在的に増えてくるかもしれません。
梅本 哲
株式会社医療産業研究所 代表取締役
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