(※写真はイメージです/PIXTA)

国内企業が生産性を高めるには、どうすればよいのでしょうか? 約18年間にわたってストレスチェックの開発と運用に携わってきた筆者は、ストレスチェックを人材配置に活かすことがカギであると語ります。

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ビジネス適応力検査で職場内のハイパフォーマーを把握

メンタル不調を“予防”し、ストレスを“成長”に活かせる組織は生産性が高い

組織には予防成長型と事後成長型、予防配慮型、事後配慮型の4つの型があり、このなかで目指すべきは、個人の成長と職場の生産性向上(パフォーマンス向上)が両立される予防成長型の組織になることです。現状では、多くの組織は職場でメンタル不調が発生してから対応する事後配慮型になります。事後配慮型が不調から回復させて、マイナスからゼロに戻すこととするなら、予防成長型はゼロからプラスに引き上げることです(図表1)。

 

[図表1]メンタルヘルスと人材育成(ゼロからプラス)

 

予防成長型を目指すには、ストレスチェックの結果を活用して、ゼロポジションに組織を移行させながら、一方で予防成長型の組織を目指すことが結果的に早道です。ゼロポジションになった段階で、より積極的にパフォーマンスを伸ばす施策が取れるようになり、ストレス対処能力(パフォーマンス)が高い人材を輩出することができるようになるのです。

ハイパフォーマーは「会社全体の生産性アップ」を牽引する存在

予防成長型の組織を組み立てる方法として、私たちはCPA(Capacity of Adaptability:ビジネス適応力検査)というサービスを提供しています(図表2)。

 

[図表2]PRASとCPA

 

ビジネス適応力検査とは、自己信頼度(SE)、前向き度(SOC)のほかに職務統制傾向(LOC:Locus Of Control)という指標を測定して、この3つを組み合わせて分析することで、各個人のビジネス適応力を測定する検査です。ビジネス適応力とは、どんな仕事・どんな職場・どんな上司でも柔軟に対応し、困難を乗り越えようとする能力です。ビジネス適応力が高い人は、職場で難しい仕事に直面してもパフォーマンスを最大限に発揮することができます。反対に、ビジネス適応力が低いと職場の人間関係や業務内容に耐えられずメンタル不調に陥りがちで、休職したり最悪退職したりすることにつながることが分かっています。

 

これらの数値は、本人の承諾があれば企業にフィードバックすることができますので、すでに職場にいるハイパフォーマーを見える化できることはもちろん、人材採用にも活用できます。ビジネス適応力を把握し、必要に応じて育成することが、戦略的な人事(HR)に求められていることなのです。

 

会社全体のパフォーマンスを高めるためには、ハイパフォーマーが誰なのかを知り、その人に牽引してもらう必要があります。一方で、育成や採用によりハイパフォーマーの数を増やす必要もあります。ハイパフォーマーをリーダーのポジションにつけることで、そのチームが活性化されることが分かっているからです。一方でローパフォーマーの底上げも必要です。

「職務統制傾向」を把握すれば、本人に合った指導が可能

職務統制傾向は、行動を統制する意識の所在が自己(内的)にあるのか他者(外的)にあるのかを測る指標です。内的傾向が強い人は、自分自身の行動とその結果は自らコントロールできると考えます。つまり自分が頑張れば何とかなると考える人です。

 

一方、外的傾向が強い人は、自分自身の行動とその結果は、外部の力や影響で決まると考えがちです。物事は成り行きに任せることもときには必要と考える人も外的傾向の強い人です。

 

例えばコーチングにおいては、内的傾向の強い人は、予想外の困難に直面して自信が揺らいでいるときに積極的にコーチするのがよいとされます。一方外的傾向の強い人には、他人からの支援が期待できないような場面で自己解決の意識をもたざるを得なくなったときにコーチするとよいとされています。要は、職務統制傾向を把握することで、本人に合った指導が可能になるということです。

パフォーマンスで「ストレスの大きさ」にこれだけの差

ビジネス適応力の判定のために用いる指標は、自己信頼度、前向き度、職務統制傾向となります。これらは私たちがもつビッグデータの偏差値を基準にします。前向き度に関しては、有意味感、把握可能感、処理可能感の詳細項目も点数化し偏差値にします。つまり自己信頼度、有意味感、把握可能感、処理可能感、職務統制傾向の5つの指標で判定することになります。これら5つを組み合わせて、A(最高)〜E(最低)を判定します。

 

パフォーマンスについては、前向き度と自己信頼度の偏差値が一定以上であればハイパフォーマーであり、一定以下であればローパフォーマーと判定します。

 

ビジネス適応力を使うと、5段階でパフォーマンスが判定できます。Aが最高、Bが高のハイパフォーマー、Cがアベレージパフォーマー、Dが低、Eが最低のローパフォーマーとなります。

 

私たちがこれまで蓄積してきた全データを分析した結果では、ビジネス適応力で見たハイパフォーマーには、ほとんどメンタル不調者が存在しないということが分かっています。

 

ストレスチェックの総合判定で言えば、AとBのうち赤信号はどちらも0.1%、黄信号はそれぞれ0.3%と0.9%になっています。一方DとEの赤信号はそれぞれ16.1%と51.0%、黄信号は30.2%と34.5%になっています。グラフを示すまでもなく、数字を見ただけで明らかにAとBのメンタル不調者は、D、Eと比較して極端に少ないことが分かります。

 

別のデータで比較すると、ハイ・アベレージ・ローのパフォーマンスごとにどのくらいストレスを感じているかがストレスの種類ごと(身体的ストレス、精神的ストレス、身体的・精神的を合算した総合的ストレス)に分かります。比較しやすいようにアベレージパフォーマーのそれぞれのストレス度を100とします。それによれば、ハイパフォーマーとローパフォーマーのそれぞれの数値は、身体的ストレスで84と118、精神的ストレスで79と126、総合的ストレスで80と124になります。それぞれの差は、身体的ストレスで34、精神的ストレスで47、総合的ストレスで44です。日々感じているストレスの大きさにここまで差があると、ローパフォーマーがメンタル不調に陥りがちになること、逆にハイパフォーマーが滅多なことでメンタル不調に陥らないのもうなずけます(図表3、4)。

 

[図表3]パフォーマンス別のストレス度(PRAS平均)①

 

[図表4]パフォーマンス別のストレス度(PRAS平均)②

 

また、組織の性質が事務型か営業型か研究開発型かにもよりますが、基本的にはローパフォーマーの比率が多いと赤信号の比率も高くなります。この2つには高い相関関係(相関係数0.82)があることも分かっています。例えば研究開発型の組織にローパフォーマーが多いと赤信号の比率が多くなり、研究開発の効率が落ちます。ちなみにハイパフォーマーやアベレージパフォーマーの比率と赤信号の比率には相関関係は見られません。

 

ローパフォーマー全員が必ずしも赤信号というわけではありませんし、相関関係はありますが、因果関係(ローパフォーマーが多いから赤信号も多いのか、赤信号が多いからローパフォーマーが多いのか)ははっきりしません。いえることは、ローパフォーマーと赤信号の両方が多い組織に対して、ローパフォーマー対策を実施すれば、組織全体のパフォーマンスが向上し、最終的には生産性の向上が望めるということです。

ビジネス適応力検査を活かした人材配置で生産性アップ

ビジネス適応力を判定した結果、誰がハイパフォーマーか分かれば適材適所の配置が可能となり、それだけで会社全体の生産性が高まります。

 

最も効果が高いのは、戦略的なプロジェクトにハイパフォーマーを配置することです。

 

戦略的プロジェクトはやり遂げたときの達成感も高いですが、それゆえに数々の課題や困難を解決する必要があります。特に今のような変化の激しい時代においては、今までの経験だけでは解決できない課題が次々と出てきます。また戦略的プロジェクトには多くの関係者が関わることが普通で、人間関係のストレスも非常に大きくなります。このようなプロジェクトを推進していくには、高いビジネス適応力をもったハイパフォーマーが必要です。一方、ビジネス適応力の低いローパフォーマーではストレスに負けてしまい、能力を発揮することは難しいでしょう。しかし、ストレスがゼロでは成長につながりません。

 

ローパフォーマーには大きな目標をもたせつつ、スモールステップ(Big picture, Small win)で成長評価を行うことで、徐々にビジネス適応力を引き上げていくことが求められます。

 

このようにビジネス適応力の判定結果に基づきながら、個人ごとに適切な難易度の仕事を与えることが、会社全体の生産性向上につながります。このことが当たり前にできるようになれば、予防成長型の組織に一歩近づきます。

 

 

梅本 哲

株式会社医療産業研究所 代表取締役

 

 

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※本連載は、梅本哲氏の著書『サイエンスドリブン』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

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梅本 哲

幻冬舎メディアコンサルティング

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