(※写真はイメージです/PIXTA)

不安や心配事、睡眠不足、難航する仕事、人間関係の悩み…こうしたストレス要因が仕事のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことは容易に想像できるでしょう。しかし、必ずしも「ストレス=悪」とは限りません。約18年間にわたってストレスチェックの開発と運用に携わってきた筆者が、ストレスと生産性の関係について解説します。

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生産性アップには「適度なストレス」が必要

心身のストレス反応、すなわちメンタルヘルスの不調は、仕事のストレス要因によって引き起こされ、個人のストレス対処能力がその影響を受けて生じます。そのため、ストレスは悪者のように言われることが多いですが、ストレスが小さすぎたり、まったくなかったりするのも問題なのです。適度なストレスがあることによって能力が開発され、ストレス対処能力が鍛えられ、生産性が高まります。

 

私がこのことを実感したのは、リーマン・ショックのあとでした。リーマン・ショックとは、ご存知のとおり、米国の投資銀行リーマン・ブラザーズが同国の住宅バブルの崩壊が原因で破綻したことをきっかけに起こった世界的な金融危機です。日本も2008年10月末に日経平均株価が、一時は6000円台にまで下落し(リーマン・ブラザーズの倒産申請直前は1万2214円でした)、米国経済への信用低下に伴うドル安の影響もあって、数年間不況に見舞われる事態となりました。

 

私たちのクライアントにも大きな影響を受けた会社がいくつもありましたが、その後の立ち直り方が会社ごとに違うという事実に気づきました。景気回復に伴ってすぐに立ち直った会社もあれば、令和になった今でもまだその影響を引きずっている会社もあるのです。

「会社のストレス対処能力」次第で業績回復に決定的差

数値を比較すると、会社のストレス対処能力に違いがあることが分かりました。すぐに立ち直った会社のストレス対処能力(従業員の平均)は高く、いまだに引きずっている会社は低いままです。ストレス対処能力が高い人、言い換えれば、自分のパフォーマンス(業務遂行能力)を常に維持できたり、一時的に落ち込む事態が生じたりしても元に戻す感覚が優れている人が多い集団(会社)では、リーマン・ショックのような社会的経済的変化に直面したときにこそ、もち前の強い復元力を発揮するのです。

 

すぐに立ち直った会社のなかには、その昔、重大事件を起こした会社もありました。社会的批判を受けて業績も落ち込みましたが、それを機会に経営層を一新し社員とともに新しく生まれ変わろうと誓い再出発した会社です。現在は清廉な社風で、売り上げも好調、社内の人間関係も良く、私から見て羨ましくなるほどの前向きな良い会社、エンゲージメントの高い会社に生まれ変わっています。こうした諸々の積み重ねのうえに、リーマン・ショック後のV時回復があったと思います。

 

これがもし事件を起こした頃のままで、生まれ変われなかったら、おそらく景気が回復しても、業績は回復しなかったのではないかと思うのです。

次ページストレスチェックからわかること

※本連載は、梅本哲氏の著書『サイエンスドリブン』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

サイエンスドリブン 生産性向上につながる科学的人事

サイエンスドリブン 生産性向上につながる科学的人事

梅本 哲

幻冬舎メディアコンサルティング

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