「いい会社には希望が集まる」
宮城に隣接する山形同友会では、必ずしも求人活動と直接、関連しないものの、学生に中小企業への理解を高めてもらう一方、職業観を醸成してもらうことを狙いに、地元の山形大学と連携して、1年生を対象に短期のインターンシップを会員企業が受け入れている。企業側はそれらに加えて社員教育や組織活性化においてもメリットがあると考えている。
なかでも「インターンシップは会社の年間イベント」と位置づけ、積極的に受け入れているのが、山形同友会の共同求人委員長を2018年から務めているサニックス社長の佐藤啓氏である。同社はコンクリート圧送事業などで地元では知られているヤマコーのグループ会社で、車検や修理に加え、例えば保冷車や宅配用、あるいはコンビニ用などに使われる、トラックの荷台部分の架装や修理を主業とする。
このうち新車架装事業は東北屈指の規模を誇る。いくつかの会社が統合した歴史を有し、1966年生まれの佐藤氏が帰郷して入社した2000年ころは、社内は全くまとまりを欠いていた。12年に専務を経て社長に就任した佐藤氏は「東日本大震災特需で仕事はあったが、社員がまとまりを欠いたままでは将来が危うい。何とか融合させないといけない」と決意した。
そこで同友会で学んだことを実践すべく、翌年には定期採用を開始、さらに間をおかず、社員を一つの方向に向かわせるために経営指針作成をスタートした。
同友会の仲間には「挨拶さえできない茶髪のあんちゃんたちに経営指針など受け入れられるのだろうか」と心配する人もいたが、粘り強い努力が成果を上げ、今では同社を訪れると社員誰もが笑顔で礼儀正しく挨拶をしてくれる。かつて心配した同友会仲間が感心するほどだ。もちろん経営指針づくりだけでなく、同友会が推進する社員参加の委員会活動にも、多くの社員が積極的に参加している。
佐藤氏は社内の風土をこうして徐々に変えていく一方、明確な業務があったわけではないが、「今後、新しいことをやるためには大卒が必要だ」と考え、大学新卒者の採用を実行に移した。情報工学専攻、体育学専攻など専攻は多彩である。
「例えば地元の芸術工科大学卒業生の場合、中心業務は営業ですが、10分の1は彼の個性を生かすステージで仕事ができるようにしている。能動的にそれを見つけることで、個々のやりがいにつながっています」
すでに同社は大卒を含め新卒入社組は70人中24人になっており、「社内の空気が大きく変わりました」と言う。個性的で意欲ある若手社員が増えているのだから、それもまた当たり前かもしれない。ちなみに同友会内では、新卒社員が6割を超えると社内の空気が明らかに変わるというのが、共通認識となっている。白地の状態で経営指針を受け入れてきた社員が、半数を超えればそうなるのも当然といえば当然である。
そうした中でインターンシップを毎年受け入れたことが、「社内に化学反応を起こさせることになった」と佐藤氏は語る。学生たちの発言や行動から思いがけない発想が生まれ、社内が活性化し、その結果、業績も右肩上がりだという。加えて18年の春には、かつてインターンシップの授業を履修したことがある山形大学卒業生が入社してきた。若い社員たちの活躍ぶりを見て、会社の活力と将来性に期待してのことだ。サニックス規模の会社では稀有のことだ。
最後に佐藤氏が社内報「輝」に記している言葉を紹介しよう。「いい会社には、人が集まり、情報が集まり、期待が集まり、希望が集まります」。同社は17年12月、経済産業省の「地域未来牽引企業」の一社に選定された。
清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー