中小企業経営者の会員を増やすしたたかな狙い
■脱落者を出さずに16年連続会員純増
会員増強で注目すべき中小企業家同友会を紹介しておきたい。香川のお隣、徳島である。ここは多くの道府県と同様、人口も企業数も目に見えて減っている地域の一つだが、2003年以降連続16年間にわたり、同友会は会員数を純増させているのだ。
2007年に代表理事に就任、現在は中小企業家同友会全国協議会協副会長(四国ブロック担当)を兼務する山城真一氏は、「徳島の場合、特に秘策があったわけではない。増員は各支部の担当とし、各支部は新入会員の満足度につながる経営指針実践塾にお誘いするとともに、既修者が熱心にフォローして脱落者がないように面倒を見る。増員数も大きな数を見込まず、毎年25人ほどと、ぼちぼち増やすという考えでやってきたのが功を奏しているのでしょう」と語る。
山城氏は高知県出身。大学卒業後、日本マクドナルドの社員になるが、1990年に社員から転じて徳島県のフランチャイジーとして独立、現在、その会社サンフォートは13店舗、社員40人、アルバイト600人を擁する。
特筆すべきは、2014、15年の中国工場での期限切れ鶏肉の使用問題に端を発した日本マクドナルドの経営危機に際して、例に漏れず厳しい経営を余儀なくされたが、同友会独特の「社員はパートナー」という考えを強固に保ち、一人の解雇者も出さなかったこと。同友会イズムの強固な実践者であり、そうした山城氏のリーダーシップが徳島同友会の着実な会勢増強を可能にしたと言っていい。
徳島同友会では19年から、山城氏に加えシケン社長の島隆寛氏が代表理事に就く。「二代目だが、先代の番頭さんを心服させ、企業体質を変えただけでなく、業績も大きく伸長させている」との山城氏の島氏評は既述の通りだが、これまでも挑戦的な経営施策を次々と実践してきたとされる島氏だけに、どういう会員増、徳島同友会改革の手を打ってくるのか、けだし楽しみである。
それにしても、なぜ各同友会は会員増にこれほど力を注ぐのだろうか。一つは「数は力なり」ではないけれども、「金融アセスメント法制定運動」「中小企業憲章制定運動」、さらにはその後の「外形標準課税導入反対運動」など、他の中小企業団体や国民を巻き込んだ運動が一定の成果を上げえたことに関して、それなりの会員数が意味を持ったという認識があるからであろう。弱小組織ではこうはいかなかったと言っていい。
またそうした運動を通じて、中央官庁、地方自治体などで、「まじめな勉強家集団」などといった中小企業家同友会に対する認識が深まり、様々な公的、準公的な会合に呼ばれ、意見を開陳する機会が増えだしたことも、組織を拡大しようという意識を強めていると考えられる。
ある県の同友会事務局長に聞いたことだが、県内の中小企業政策に関する意見陳述する会に従来呼ばれたことがなかったが、中小企業基本条例の県議会通過を推進したことをきっかけに、県庁の経済産業関係の部署から呼ばれることが多くなり、今もそれは続いているという。多くの県、政令指定都市を含む市町村でも同様だと聞く。とすれば同友会にとって会員を増やすことは、自らの政策課題を行政の課題として乗せていくことにつながり、大いに意味のあることであることは言うまでもない。
それがある種の成果をもたらせば、組織の意気は一段と上がるし、また人間という動物はある競争条件の場に置かれると、何とか相手に勝とうと意欲を掻き立てるものだ。同友会であれば隣県の同友会、あるいは同規模の都道府県の同友会に負けまいとする。県内の支部同士でも同様である。対象が他の中小企業団体である場合もあるかもしれない。いずれにしろ、各同友会は基本的には政策実現のために、一方では組織に内在する競争意識によって、積極的に拡大に向けて動いていると言ってよかろう。
加えて各同友会にとり、会員数が予算の多寡と直接連動しており、それはまた事務局員の数と質に直結している。北海道同友会が現在、全国一の規模を誇るだけでなく、共同求人などいくつもの先駆的施策を展開し得たのも大久保尚孝氏という優れた事務局長が存在したからだと言われている。ほかの同友会でも、会員数が急増した時には優れた代表理事に加えスタッフとして有能な事務局メンバーが存在したというのが定説になっている。
同友会活動が質的に向上していくためにも、スタッフの強化、そのためにも会員増強が不可欠だと言っていい。愛知同友会の活動は、その意味で理に適っている。