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大阪同友会が直面する地域の疲弊と荒廃
中小企業家同友会会員企業と教育現場との関わりは、ごくシンプルに人材確保を求めて始まった。一社で募集してもなかなか希望者を集められないことから、「共同求人」という形が構想された。ただしそこで就職先として選択されるには、当該企業が新卒の定期採用をしてきたかどうかが大きな要件となった。
その前段には経営の安定、就業規則や給与体系の整備などが横たわっていた。ここで真摯に人材を求める同友会会員企業は、社内体制を整備したうえで、新卒定期採用という関門を突破する必要が生じたのである。
「これは企業規模の問題などもあり、なかなか厳しく、いまだ乗り越えられない会員も多い。各同友会の代表理事の会社でも、まだ新卒定期採用に踏み込めないところがある。私は彼らに、毎年が無理なら一年おきでもいいから、まず新卒採用を始めましょうとすすめています」
中小企業家同友会全国協議会(中同協)の共同求人委員会副委員長を務め、共同求人・新卒定期採用を推進する、佐藤全ヴィ・クルー社長はそう語る。毎年にしろ隔年にしろ、新卒定期採用を続け、一方で「経営指針成文化」運動などを着実に実行していけば企業体質は着実に変化していき、社員も経営理念も定着するという確信があるからだ。
同友会運動の基本理念とも深く関わるこの企業体質の変革、あるいは強化を目指す考えから、合同新入社員研修から幹部社員研修に至るまで、同友会ごとに組み立てや名称は異なるが、多段階の社員教育システムが構築されている。最終的には経営者、幹部を含めた「共育ち」が目的である。
さて、このように社員の採用という一点で教育現場と結びついた会員企業だったが、中小企業の実際の姿を生徒に理解してもらうことにより、地域の一員である中小企業を働く場としてきちんと認識してもらおうとの考えも芽生えてきた。
同友会理念の一つ、「国民や地域と共に歩む中小企業」という考えが、それを後押ししたと見て間違いない。宮城県中小企業家同友会が地元の大学と連携協定を結び、会員経営者が出向いて「中小企業と地域創生論」を開講したりしているのはその具体例だ。
■家庭、学校、社会が教育の3本柱
こうした活動に対して、地域が直面しているよりシリアスな問題、地域の疲弊、荒廃と向き合う中で、中小企業とはどういう存在で、どういう仕事をし、どういう人が働いているのか──。会員経営者が高校に出向き、生徒たちと対話を重ねてキャリア支援教育を行う中で、就職を含めた地域の問題点のいくつかを解決しようと粘り強く取り組んできた同友会がある。東京に次ぐ歴史を有する大阪府中小企業家同友会(大阪同友会)である。
会員数およそ2400人の大阪同友会が、社員の主たる採用先である府内の高校と組織的に交流を持ち始めたのは、20年ほど前のことだ。そのころは進路指導の教員と懇談しつつ、「生徒さんを紹介してくださいよ」とお願いする、ごくありきたりの交流だった。潮目に変化が起きたのは、2011年9月に大阪府が普通科高校に派遣した民間の就職コーディネーターが音頭をとり、同友会会員25人と校長28人とが意見交換会を兼ねた懇談会を開いたことである。
懇談の場で会員の一人が、「先生方、もっと生徒をしっかり教育しなはれ。ここへ来る前にパチンコ店の前を通ったら、若者が大勢たむろしていましたわ」とボソッと苦言を呈したのだ。すると、ある校長がこう言葉を返してきた。
「おっしゃることはわかります。そやけど少し考えてみてください。彼らだってあそこに居たくているわけやないんです。本当は社員になって働きたいんです。それが叶わないから、あそこにたむろしているんです」