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新卒定期採用が地域を活性化
まず取り上げたいのが宮城県中小企業家同友会である。宮城同友会は1974年に設立され、現在、およそ1100人の会員が在籍している。うち「共同求人」活動には、直近ではおよそ80社が参加している。全国の同友会の中でも「共同求人」活動に積極的な会だと言われているが、参加企業が会員の1割を切っている数字が、共同求人活動、定期的な新卒採用の難しさを象徴していると言えなくもない。
宮城同友会代表理事で、共同求人委員会委員長を務めたことのある日東イシダ会長の鍋島孝敏氏がここに至るまでの経緯を、次のように語る。
「私が同友会に入会したのは、95年。宮城同友会ではすでに共同求人委員会ができていました」
51年生まれの鍋島氏は、慶應義塾大学を出て日本交通公社(現・JTB)に入社。その後、日東イシダに移ると、社長である父親の下で専務を務め、採用担当を任された。同社ではすでに76年から新卒の定期採用を始めていた。一人で県下の大学、専門学校、高校を走り回るが、どの学校でもまともに取り合ってもらえず、はかばかしい成果は得られなかった。そこで同友会の共同求人委員会に加わることにしたのだという。
「共同求人委員会には10社ほどが参加しており、求人雑誌を発行したり、合同会社説明会をやったりしていました。これは大変助かる、一人では回りきれない学校とも関係がつくれると思ったものです」
その時点での宮城同友会の会員は800人弱。共同求人活動に参加しているのは、新卒社員を採用したい企業だけなので、活動費は受益者負担、すべて参加企業持ちだった。そうしたこともあり、「共同求人活動に参加しよう」と会員たちに声をかけ続けたが、先に挙げたような理由に加え、わずかな経費負担をも忌避する空気があり、参加企業は増えなかった。
抜本策はないものか、鍋島氏らは必死に情報を求めた。着目したのは各地の同友会が取り組み始めていた「三位一体経営」と呼ばれるものだった。「経営指針を作成し、ついで新入社員の定期採用をスタートさせ、彼らを同友会理念に沿って教育していく」という考えである。「共同求人」を始めるに当たって、北海道同友会の大久保氏らが究極的な理想としてきたものも、多分そうしたものであったろう。
鍋島氏らは急がば回れで、経営指針成文化運動の取り組みに積極的に参画する。自らも「経営指針を創る会」に参加する一方、仲間を募った。
「いま人手が充足していたとしても、10年後、20年後はどうなんだ。今のうちに若い人を採用しておかないと、平均年齢がドンドン上がり、そして最後には誰もいなくなるんじゃないの。経営理念を創り、経営計画書に定期採用しますと明記しておけば、新卒者も安心して入社してくれると思うよ」
そうした内容のことを会員に語りかけながら、「半ば強引に共同求人活動参加メンバーを増やしていったのです」と鍋島氏は振り返る。