近年、少子化による若年労働者の不足に伴い、多くの中小中堅企業では採用難が深刻化しています。「共同求人」「合同会社説明会」「合同入社式」…、地方の中小企業が新入社員の採用に苦戦しています。新卒採用にはどんなメリットがあるのでしょうか。※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

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「共同求人」「合同会社説明会」「合同入社式」

■北海道で生まれた「共同求人」活動

 

前日の雨模様から一転、青空が広がった札幌市。札幌駅からほど近いホテルで、いささか趣の異なる新入社員の入社式が行われた。集まった男女192人はいずこの会社の例に漏れず初々しく、かついささか緊張気味に見えたが、実は彼ら彼女らは道央圏にある北海道中小企業家同友会会員企業77社の「合同入社式」に参加した若者たちなのである。

 

今や圧倒的売り手市場と化した就職戦線にあって、地元に残っただけでなく、中小企業をあえて選択した、その意味できわめて意欲的な若者たちでもある。

 

式は2部に分かれ、第1部ではまず北海道同友会代表理事の一人で、従業員数500人余、北海道産男爵イモを用いた冷凍コロッケなどの製造・販売で知られるサンマルコ食品社長の藤井幸一氏が、「皆さんは常に学びを深め、よきパートナーである社員の皆さんとともに、存在感のある企業を目指す意欲の高い会社に就職できました。必ず良い会社に就職できたことを体験できると思っております」と確信に満ちた祝いの言葉を述べた。

 

そのあと来賓の挨拶、新入社員の紹介があり、続いて札幌市内に本社を置く不動産会社アセットプランニングに入社した岩渕さやかさんが全員を代表して同友会の「合同企業説明会」での同社との出合い、本社を訪れた際の好印象などを織り込んだ、メリハリの利いた決意表明を行った。

 

普通の入社式ならばここで解散となるところだが、第2部では新入社員全員参加の「ワールドカフェ」という新入社員たちの討論の場が持たれ、「会社に入った理由」「入社後にやりたいこと」をテーマに、会社の異なる4人ひと組で2度メンバーを交代しつつ、所属企業の垣根を越えて自由で活発な意見交換を繰り広げた。

 

「経営指針成文化セミナー」などを含めて、いかなるレベルの会合でも、必ず徹底的に論議を交わす同友会らしい風景であり、入社式当日から新入社員たちは同友会式会合の洗礼を受けたのである。この入社式の後、数日を経て彼らの多くは合同の新入社員研修に臨むことになっていた。

 

それにしても「合同入社式」やそれに先立つ「合同企業説明会」というのは、多くの読者にとり耳慣れない言葉ではなかろうか。この2つに加えて「共同求人」という言葉も、同友会ではよく用いられる。これらが同友会加盟企業の新卒採用の三点セットだと言ってよい。

 

なかでもベースとなるのが「共同求人」であり、実はほかならぬこの北海道同友会から生まれた運動でもあるのだ。この新卒採用の三点セットは、その後、新入社員研修、中堅社員あるいは幹部研修へとつながる。

 

それらは同友会思想の基盤をなす「労使見解」と密に結びつき、経営者と社員がパートナーとして共に育つ「共育」、あるいは「共育ち」という呼び名の下で、「経営指針成文化」とともに同友会運動の重要な柱として全国の同友会で積極的に取り組みがなされている。行きつく先が、すでに触れた未来工業や吉村のような、「日本でいちばん大切にしたい会社」などに選ばれる企業と言っていいだろう。

 

次ページ経営者の質、企業の質、社員の質が問われる

※初出:清丸惠三郎著『小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月11日刊)、肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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