未曽有の豪雨の大水害…老舗の味噌屋を救った親切と幸運の連鎖 (※写真はイメージです/PIXTA)

老舗の味噌屋を大豪雨の水害が襲いしました。多くの味噌や原材料、機械が水に浸かって使えなくなりました。翌日から状況を知った同業者、取引先、お客がボランティアとして応援に駆けつけてくれて、短期間に奇跡の生産、販売再開を果たします。ジャーナリストの清丸惠三郎氏がレポートします。

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創業は「赤穂浪士討ち入り事件」の13年前

■苦境を乗り越えた、その先に

 

「老舗は革新の連続こそ求められる」との宮﨑本店会長の宮﨑由至氏の言葉を、今まさに実践しているのが、大阪府東大阪市に本社を置く油脂、食品、洗剤などの専門商社マルキチである。創業は1689(元禄2)年というから、あの赤穂浪士討ち入り事件の13年前。創業の地は商いの本場大阪船場で、現在地に移ったのは1981年のことだ。

 

社長の木村顕治氏によれば、現在に至るまで扱い商品は変転を極め、「一貫して変わらないのは植物性油脂が商いの中心だ」ということだけ。例えば江戸時代には誰もが用いたびんつけ油は断髪令が出て用途がなくなり、照明用油もガス灯、さらには電灯の登場で市場が消滅した。時代の変化に翻弄されてきた商いと言っていい。そうした渦中にあってもマルキチの歴代当主は新たな商売のタネを見つけ、家業の発展に努めた。

 

特に戦後、カロリー不足が叫ばれる時代に食用油を扱い始めたことが大きい。「菓子メーカーやレストラン向けなど業務用市場に入っていったことが、戦後の成長のばねになりました」と木村氏。油脂に隣接する洗剤にも手を広げていった。しかし今度は流通革新が前途に立ちふさがる。主な販路である二次卸が次々と店を閉じていったのである。

 

1962年生まれ。東京商船大学(現・東京海洋大学)を出て大手船会社に勤めていた木村氏が、家業を継ぐために帰ってきたのは94年のこと。すでに売り上げはじわじわ減ってきていたが、売上品目も売り先も多様化していたので、急速に経営が悪化することはなかった。だが社長に就任した2002年、いよいよ苦境に追い込まれる。「この前後が経営的にも、個人的にも一番苦しかったですね」

 

社員の昇給はできず、ボーナスも払えなかった。一方で銀行からも業務改善計画書を出せと迫られた。とにかく会社の資産を整理するなどできる限りの合理化を行い、この時期を乗り切った。

 

「希望退職の募集を行わないですんだのだけが救いでしたね」

 

その後、行き詰まりを打開するために社内に新しい血を入れようと、木村氏は高卒、続いて大卒新人の採用を再開するとともに、新たな商材としてオリーブオイルなどに注目、これをBtoCで直接消費者に売る一方、東大阪市近辺で料理教室などを開いている人に売り込み、口コミでの販売増に取り組み始めた。商材探しに、木村氏自らイタリアのオリーブオイルの有名産地に足を運んだりもしている。今、人気なのはシチリア産の「Rolui」という商品だという。

 

実のところマルキチはここ数年、売り上げ減が続いているが、利益水準は下がっていない。BtoCビジネスにより粗利率が上がっているからだが、木村氏は「まだまだ利益水準が低い。もっと厚みのあるビジネスにしていかないといけない」と口元を引き締める。

 

「ちゃんとした仕事を後継者に残さないといけない」という気持ちも、先代から言われているわけではないが、300年企業の経営者としては強く自覚している。会社を残すことはまた、木村たち大阪同友会の会員がいま取り組んでいる、地域の若者に仕事を残すこと、地域を元気にすることをも意味している。

 

■誠実さと真摯な姿勢が企業を永続させる

 

市場環境の変化、市場の縮小に関わっていかに生き残るかに向き合ってきた会員企業のケースを見てきた。しかし企業の存続を揺るがす条件は多様である。特にここ10年余りの日本は神戸・淡路、東日本、そして熊本と大規模な地震や、地球温暖化に起因すると考えられる50年とか100年に一度とかの未曾有の大暴風雨など、自然災害により企業の経営基盤が揺るがされる事態が多々起きている。

 

すでに東日本大震災に見舞われた東北三県の同友会企業のその後の奮闘ぶりはすでに記したが、最後にもう一社そうした事態に直面しながら、企業存続に全力を注いでいる同友会企業を紹介したい。岡山同友会の代表理事を務める山辺啓三氏が経営するまるみ麹本店がそれである。記者が山辺氏に会ったのは、(2018年)8月2日、倉敷市郊外で開かれた岡山同友会の第20期・社員共育大学の懇親会の場であった。

 

向かい合って座ったことから、何気なく「7月上旬の岡山・広島地方を襲った豪雨ですが、山辺さんの会社には被害はありませんでしたか」と尋ねたところ、「それが……」と、以下のような話を聞かせてくれたのである。

ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー

1950年石川県小松市生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒。人間科学修士(教育学)。

日本短波放送(現・日経ラジオ社)報道部プロデューサー、記者などを経て、ダイヤモンド・タイム社(現・プレジデント社)入社。

「ビッグ・サクセス」「プレジデント」編集長、取締役出版局長などを歴任。

この間、「プレジデント」をビジネス誌NO1に。1997年歴思書院を設立、以降、出版・編集プロデューサーの傍ら、「中央公論」「週刊東洋経済」「夕刊フジ」などを舞台にジャーナリストとして活躍。

主な著書に「出版動乱」「ビア・ウォーズ」(以上東洋経済新報社)、「ブランド力」「数字で楽しむ日本史」(以上PHP研究所)、「北陸資本主義」「地方の未来が見える本」「江戸のベストセラー」(以上洋泉社)などがある。

著者紹介

連載大企業経営者をも魅了!中小企業「経営者団体」の秘密

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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