(※写真はイメージです/PIXTA)

香川県中小企業家同友会が、全国の同友会会員から格別に注目されています。それの理由はひとえに、県内の全企業数に対する会員数の比率(対企業組織率)の高さにあります。香川同友会がなぜ会員増強にこだわるのでしょうか。ジャーナリストの清丸惠三郎氏がレポートします。

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お年寄りが転ばないシューズがないか

■経営者として、人間としての学び

 

香川県東部さぬき市のひなびた田園地帯に立つ徳武産業本社工場の駐車場に、同乗している車を運転してきたカメラマンが尻から入れようとしたところ、係の人が飛んできて頭から入れてくれと告げた。周りを見まわすと、国内の一般の駐車場とは逆にみな頭から入れて駐車している。なぜだろうか。頭をひねりつつ記者たちは車を降りたが、やがてその理由がわかることになる。

 

徳武産業は2018年度の売上高が25億円超という中小企業だが、高齢者、障がい者向けケアシューズ市場のパイオニアとして、現在、販売数量では国内トップ企業である。障がい害者の現実を斟酌し、例えば左右サイズ違いのものをセットで売るだけでなく、片方だけでも売るという販売手法も取り入れ、単にシェアが高いだけでなく、ブランドロイヤルティのきわめて高い企業としても知られている。

 

障がい者の身になって商品をつくっていることから、障がい者やその家族、関係者の間での知名度は抜群だと言っていい。同社へ毎日のように送られてくる、ユーザーからの手紙類を見ると、いかに徳武産業の靴を彼らが待ち望んでいたのかよく理解できる。

 

こうした現在の徳武産業をつくり上げたのが、会長の十河孝男氏である。香川県の地場産業であった手袋製造業からスタート、スリッパづくりなどへ転換していた徳武重利夫妻の長女と結婚した十河氏は、銀行を経て親せきの手袋製造会社に転じ、1984年37歳のとき義父の死去に伴い徳武産業の社長となっている。

 

当初は大手メーカーへ納める学童用シューズ、次に大手通信販売会社向けのトラベルポーチやルームシューズなどを手掛けた。しかし十河氏は下請けやOEM生産の限界を知り、新商品、それも自社ブランド商品を模索することになる。そうしたときに運命的に出合ったのが、ケアシューズだった。

 

知り合いの老人ホームの園長から、「お年寄りが転ばないシューズができないか」と困り切った相談の電話があったのだ。これがケアシューズ市場へ進出する端緒となる。

 

しかし当然ながら簡単に事が進んだわけではない。トラベルポーチを生み出したヒロ子夫人(現・副会長)と2年間、開発に没頭する。この間、社業は信頼する幹部たちに任せたのだが、気が付くと会社は創業以来の赤字に。十河氏は自分の責任を棚に上げ、信頼して任せたはずの部下を厳しく叱責した。社内の雰囲気は悪くなり、幹部3人を含め社員が次々と辞めていったという。

 

41歳で同友会に入会した十河氏が、経営者として本気で勉強すべきだと考えはじめたのはこのころだった。「月々の支部例会に出て、全国中小企業研究集会にも行くことで、経営者として、人間としていろいろな学びがありました」と振り返る。

 

「手段としては経営指針の作成を重視し、全社員が参加するようにした」と語る。今では毎年行うようになった徳武産業の経営指針発表会には、取引銀行の支店長、担当者までもが顔を揃える。そして中途退職する社員はほとんどいないどころか、採用難などどこ吹く風で、大卒を含め優秀な人材が自ら希望して相次いで入社してきているという。

 

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※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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