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会社の成長は経営者の一大責任
■出店契約が10カ月で打ち切りに
会社設立から15期目、インターネット通販からスタートして、2009年6月に実店舗を滋賀県草津市に初出店、いまや全国に39店舗を展開するに至った帽子専門のチェーンが兵庫県神戸市にある。スタート時には数千万円の売り上げにすぎなかったが、18年2月期にはグループ年商で14億2000万円にまで伸びている。PORTSTYLE(ポートスタイル)がその会社だ。
創業社長の水木秀行氏は1980年7月生まれというから、まだ40代。実年齢もそうだが、帽子というファッションアイテムを扱うだけに、風姿がいかにも若々しい。ただし勢いに任せて会社を伸ばしてきたわけではないことは、水木氏の言葉の端々に窺える。例えば商品企画。
「お客様のニーズを最も知っている売り場スタッフの声を、毎週のミーティングで情報として集約、そこから新しい商品を生み出していくシステムにしています」
その売り場のスタッフも、正社員、地域限定の地域社員、準社員、それにアルバイトのパートナーと分かれているが、「パートナーでも能力があり希望すれば、正社員になることができる柔軟な人事制度を取り入れています」と言う。
また企業理念として、「もっと楽しいを。もっとenjoy!に。」を掲げ、「まずアルバイトを含む新入社員には、ウエルカム研修を行い、理念を含めた当社が大切にしている価値観をしっかり伝えるようにしています」。のみならず新入社員、準社員になって間もない社員を対象に「ベーシック研修」を、さらにベーシック研修を終えた幹部向けに「MG(マネジメントゲーム)研修」を行い、経営知識と理念をみっちり学んでもらう体制にしている。
また毎年、経営計画発表会を実施し、経営計画の浸透と全社員のコミュニケーションを増進することにも努めているという。
ここまで読んできておわかりかと思うが、流行の先端を追うファッション企業らしく、企業理念は軽やかな言葉で表現されているが、経営者と社員が手を組んで進む姿勢、社員の自発性を大切にする制度、あるいは社員が経営理念への理解を深める研修システム、経営計画発表会の開催などを見ていると、まさに同友会の経営プログラムを実践していると言っていい。
実は水木氏は2007年、27歳のときに兵庫県中小企業家同友会に入会している。水木氏はすでに大学時代に友人とネット通販の会社を立ち上げた経歴がある。経営者だった父親の影響もあり、その後独力で起業したいと考え、手探りの中で行きついたのが帽子ショップだった。
「大手ブランドが見当たらず、専門店も少ない。在庫をそれほど持たずにすみ、初期投資が少なくてすみそう」が選択の理由であった。
やはりネット通販でのスタートだったが、次第に軌道に乗り始め、2、3年続けたところで実店舗を出すことを決意した。ネットと両輪で販売していけば、ビジネスとして確実だろうと考えたのだ。
「ネット通販同様、老若男女が覗いてくれるという点で(出店先は)ショッピングモールがいいだろうと考え、積極展開している大手モールに話を持ちかけてみた。望み薄かと思われたが、やがて催事でやってみないかと声がかかったのです」
しかし手ごたえはあったものの、10カ月で出店契約は打ち切られてしまった。
■顧客獲得No.1を目指す理由
これでそのモールとの付き合いは終わりかなと思っていたところ、しばらくして滋賀県草津市にあるモールに出ないかと連絡があった。今度は本格出店だった。モール内に帽子専門店がなく珍しがられたことに加え、周囲の店舗に集客力があって客が引っ張られたのか、第一号店はしっかりした数字を上げることができた。そうしたことから同系列のモールに次々と5店舗まで出店することになった。
しかし草津店以外の売り上げは、水木氏にとり必ずしも満足いくものではなかった。あるとき、メガネチェーンを覗いていて、価格帯がいくつかの段階に明確に区切られているのに気付いた。
「価格を幾段階かに明確に分ければ、帽子に興味がない人でも店に入ってきたときに、手に取ってくれるかもしれない」
リブランディング(ブランド再生)の一手法である。13年、草津店などを手始めに価格を2500円、3500円、4500円の3段階に分け、なおかつ2個まとめて買うと1000円値引きするなど価格戦略を大胆に変更した。ブランド価値が下がるのではないかとの危惧もあったが、この戦略は成功し、以降、PORTSTYLEは直近の39店舗まで、右肩上がりで店舗が増え続けているのである。
この間、同友会で学んだ水木氏としては悩みがなかったわけではない。いやその悩みは今もくすぶっていると言っていい。
一つは、中小企業は基盤をつくりつつ堅実な成長を目指すべきだという思いから、自分自身がなかなか脱しきれないこと。加えて同友会の目指す経営指針を柱にした「強靭な経営体質」を有する「よい会社」づくりに、大きく踏み出せないことだ。
「現実の経営戦略としてうちは大手のチェーンと同じ手法を採っている。というのも少しでも注目されているうちに好立地を確保しないと、ライバル、あるいは資本力のある大手に市場を取られてしまい、競争に負けてしまう。つまりスピード経営に比重を置かざるをえないのです。人材育成などにも力を入れてはいるが、店舗の拡大に追い付かないのが現実です」と水木氏は嘆息する。
こうした水木氏に大きな励ましとなっているのが、やはりネット系ビジネスで成長しているデジアラホールディングス会長で兵庫同友会副代表理事を務める有本哲也氏である。デジアラホールディングスは「エクステリアのネット販売のパイオニア」と評され、庭や塀など家屋の外回り、つまりエクステリアをインターネットを介して全国に向けて販売・施工する「エクスショップ」や外構工事の企画・運営・管理を行う「ガーデンプラス」を傘下に置き、2000年創業ながら、19年3月期には106億円の売り上げを記録している急成長企業である。
「企業として拡大志向があり、それが戦略として重要であるならば、何も気にせず前進しろ」というのが、有本氏の水木氏へのアドバイスだった。
その言葉を背に受け、いま水木氏は「売り上げや店舗数ではなく、顧客獲得No.1の企業」を目指して前進を続けている。すでに東日本への展開を急ぐために東京にもオフィスを置き、店舗数も100店舗までは拡大する計画である。また、新たに海外展開も視野に入れているようだ。