病院の継続受診は2~3回目までに決定
■患者の受診先選択に関するインタビュー調査の結果
(1)初回受診先選択の意思決定プロセス
GTAを参考に、導き出したラベルとカテゴリー抽出の結果を示す(表1)。受診前の「初回受診先選択」では、【紹介・評判】、【物理的条件1】のカテゴリー2分類(ラベル9種)が抽出された。初回受診先選択の意思決定では、全患者が症状から病気を明確にできず、不安を抱えながら受診先を探っていた。インタビューでは、病気を疑った時の状況や診療所選択の記憶は明確であった。
第1カテゴリーの【紹介・評判】は3つのラベルで構成された。親や知人からその症状ならこの医師に診てもらうと良いと紹介されるなどの『家族・知人の紹介』、母親から設備が良いと聞いたなどの『家族・知人の評判』、祖母が通院していたなどの『家族の経験』が抽出された。知らない診療所には行けない、紹介が唯一の信頼材料など、患者は身近な人の紹介を重視しており、初回受診先選択の意思決定では【紹介・評判】が影響していた。
第2カテゴリーの【物理的条件1】は、6つのラベルから構成された。複数診療科を持つ『規模』、CT、MRI などの検査が可能な『設備』、各領域の専門性の高い医師がいるなどの『専門性』、自宅や駅への『近さ』、祝祭日に診てもらえる『休日診療』、遅くまで診療している『遅い診療時間』が抽出された。
(2)継続受診先選択のカテゴリーと意思決定プロセス
「継続受診先選択」は、【私の理解者】【感情】【他者の評価】【医師の人間性】【コミュニケーション】【問題の解決】【物理的条件2】【医師への信頼】【医師に任せる】のカテゴリー9分類(ラベル27種)により構成された(表2)。
【私の理解者】カテゴリーは、5つのラベルから構成された。全患者が同様のコメントしていることから、重要な要素であることが伺えた。私のからだをわかってくれているなどの『からだを理解』、私の内情を知っている『気持ちを理解』、先生がそろそろ心臓の検査だよと言ってくれる、薬の調整をしてくれるなどの『私に適した医療管理』、『コントロールしてくれる』、『説明しなくてもわかってくれる』が抽出された。
【感情】カテゴリーは、4つのラベルから構成された。先生とは相性が合うなどの『相性の良さ』、安心して受診できる『安心感』、すごく心強いなどの『心強い』、先生はホッとするなどの『ホッとする』が抽出された。
【他者の評価】カテゴリーは、3つのラベルから構成された。娘が近くの他の診療所に行ったけれどやっぱり他は違ったなどの『家族の評価』、偶然知人が勤めていて、通院中にその医師は良いと言われたなどの受診後の『知人の評価』、また、患者は、診察室から出てくる他の患者の顔をよく観察しており、みんないい顔をして診察室からでてくる。泣く子供はひとりもいないなど『他の患者の反応を見た評価』が抽出された。
【医師の人間性】カテゴリーは、3つのラベルから構成された。医師は患者と向き合い、治そうという姿勢が感じられるなどの『姿勢』、病気や症状を決めつけないなどの『患者目線』、いつも自分を治療に向けてくれるなどの『患者を治療に導く』が抽出された。
【コミュニケーション】カテゴリーは、ラベル1つで、話しやすい、なんでも聞ける、気さくに話してくれるなど『話しやすさ』が抽出された。
【問題の解決】カテゴリーは、4つのラベルから構成された。これは全患者のコメントから、根本的な問題解決の重要性が伺えた。重篤な病気だが普通の年代の人と同じ生活をさせてもらっているなどの『病状の改善』、先生の説明はよくわかり納得できる、疑問を解決、病名を明確に説明、データによるわかりやすい説明などの『納得の治療』、先生にかかったら治ったなどの『医師の技量』、重篤な病気を早期に発見してくれたなどの『病気の発見』から構成された。
【物理的条件2】カテゴリーは、4つのラベルから構成された。自宅や駅までの『近さ』、複数診療科がある『規模』『設備』の3ラベルは、初回受診での【物理的条件1】と同様であった。新たに継続的な受診によって形成されたのは、受診帰りにスーパーに寄れて便利などの『利便性』が含まれた。これは経験後でないとわからない内容である。また、『設備』については、初回受診先選択では、適切な検査を望みCT やMRI を求めていたが、継続受診先選択では、リハビリやマッサージなど治療に視点が移っていた。
【医師への信頼】カテゴリーは、ラベル1つで、先生を信頼している、信用したら離れない、信頼できる人に会えたからそれでいいなどから形成された。
【医師に任せる】カテゴリーは、2つのラベルから構成された。医師の言ったとおりにするなどの『指示に従う』、他の医師では駄目、遠くて待ち時間が長いのを差し引いてもこの先生などの『他の医師ではダメ』が抽出された。このカテゴリーは継続受診の意思決定プロセスにおいて最終的な情報処理であった。
(3)継続的な受診先の選択は、初回から2、3回目で心が決まる
インタビューでは、診療所に継続受診しようと決めたのはいつ頃だったのかを確認した。記憶を辿っているものの、全員が明確に答えていた。継続受診への意思決定は、初回受診時点から2、3 回目の受診で判断していた。
その後、時間経過とともに信頼は高まり、継続受診に対する思いは、「ここが私の(診てもらう)場所」との発言があり、当該診療所の医師が最終到着地である気持ちの強さが伺えた。また「遠くても、待ってもこの医師」と答えており、受診先において、受付から「担当の医師は混んでいるため2時間待ちだから他の医師に変えますか?」と言われても、「医師を変更しないで待つ」と回答していた。
杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長