(※画像はイメージです/PIXTA)

患者は、なぜその受診先を選び、どの段階でその医師に診てもらおうと選択し、継続的に受診することを考えるのだろうか。また、それはどのような患者の思考スタイルからおこるのか。※本連載は杉本ゆかり氏の著書『患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング』(千倉書房)の一部を抜粋し、再編集したものです。

初回受診の前は、病気や治療に気持ちが集中

また、受診先選択において、受診前の初回時と継続時では情報処理が異なることも推測できる。理由としては、受診前の病気が不明な状態と、病名が確定し治療が進んでいる状況では、患者の求めるものが変化するためである。例えば、受診前の初回受診先選択において患者は、病名は何か、治る病気なのか、どんな治療をするのかなど、病気や治療に気持ちが集中する。

 

一方、通院中では、すでに治療が行われているため、患者は、医師は私の体調を把握しているのか、今の治療方法は適切なのか、医師は信頼できるのかなど、医師の能力や関係性などを考える。

 

以上により、【リサーチクエスチョン1】は、「初回受診先選択において、患者は適切な診断と治療を考えて情報収集し、条件を確認のうえ、身近な人の評価を判断材料として合理的な熟考的思考により意思決定を行う」、また【リサーチクエスチョン2】は、「継続受診先選択において、患者は医師への信頼や好き嫌いの感情、医師との関係性など非合理的な直観的思考により意思決定を行う」と考え、初回受診時と継続時の意思決定プロセスについて、調査を行った。

 

(2)患者調査と分析について

 

本稿では、患者の視点から理論を構築することを目的とし、質的研究を試みた。インタビューによるデータの収集は、患者の生活や経験を含めて話を聞き、反応により質問を発展させるために半構造化面接とした(高木,2011)。インタビュー調査は2018年5月14~26日に実施した。

 

面接は患者の外来診療日以外でプライバシーの保てる落ち着いた状況下で行い、了解を得たうえで録音した。面接内容は、「現在治療している病気の治療のために、今の診療所を最初に選択した時の状況と理由」「現在、今の診療所に受診を続けている状況と理由」を確認した。

 

対象者の選定は、診療所に勤務する内科専門医、循環器内科専門医、神経内科専門医に調査協力を要請し、各専門医が担当する定期的に継続受診を行っている慢性疾患患者から選定してもらった。患者の健康状態、認知状態を確認のうえ、調査期間の2週間前に外来受診した患者の中から医師が依頼し、承諾を得られた患者を対象とした。

 

各専門医を通して依頼をした患者10名のうち、承諾した対象者は9名であった。面接は各1回実施し面接時間は平均50分であった。属性は、30~80代までの男女9 名(内男性2名)であり、疾患は、高血圧症2名、心疾患1名、リウマチ1名、慢性腰痛1名、脳梗塞2名、高脂血症1名、糖尿病1名であった。患者は発症後、半年から20年が経過していた。

 

分析手法は、グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下GTA)を採用した(戈木,2008;Creswell & Poth, 2017)。GTA を採用した理由は、第1に、仮説生成が可能であること。第2に、人の内面調査に適しており、患者の視点から理論構築が可能である(Creswell & Poth, 2017)。第3に、分析プロセスは明確化されているため、質的研究にありがちな内容の漏れ、データの読み違いなどを防ぎ、分析者の力量による分析の差を回避できる(戈木,2008)。以上により、患者の意思決定を探るのに最適であると考えた。

 

GTAのプロセスに従い、『オープン・コーディング』のうえ、『アクシャル・コーディング』によりカテゴリー関連図をつくり、現象の理論をつくった。最後に『セレクティブ・コーディング』では、影響の方向を確認し、最終カテゴリーの関連図をつくり、構造化を行った(戈木,2008)。

 

このカテゴリー関連図は、患者の現象を把握するため、カテゴリー相互の関係から検討し、受診先選択の意思決定プロセスを説明している。なお、GTA の活用事例は多く、がん患者の治療に関する意思決定の看護研究では、対象者10名によりGTAを活用して構造化を行っている(尾沼ほか,2004)。

 

本研究は、人を対象とする医学系研究の倫理指針に則り、研究を行った。対象者には、倫理的な配慮を行った。なお、調査依頼者である筆者ら研究者と各医師、回答者との間に経済的な関係はなく、開示するCOIはない。

 

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患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

患者インサイトを探る 継続受診行動を導く医療マーケティング

杉本 ゆかり

千倉書房

「患者インサイト」とは、患者が心の奥底で考えている本音であり、医療に関する意思決定である。この患者インサイトを明らかにすることで、患者への情報提供や情報収集など、患者との効果的なコミュニケーション理解できるよう…

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