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病院選びは熟考的思考と直観的思考のどちらで決定?
■診療所における受診先選択の意思決定プロセス
本稿では、GTA の結果から、診療所における受診先選択の意思決定プロセスをフェイズ1~4までの4つのステップで捉えた(図1)。各フェイズは患者の時系列での意識の変化を示している。フェイズ1 は、受診前の初回受診先選択、フェイズ2~4は、通院中の継続受診先選択を示している。
・フェイズ1(受診の検討から診療所の選択までの受診前の段階)
体調の変化に気づき、不明ながら病気を疑い、受診先を選ぶ段階である。ここでは、「紹介や評判」および、距離的な近さなどの「物理的条件1」が検討される。
・フェイズ2(通院初期)
初回受診において慢性疾患で通院が必要だとわかり、継続受診を意識しながら受診を重ね始める段階であり、継続受診に適した診療所かどうかを判断する段階である。受診では、病状の改善などの「問題の解決」、「他者の評価」、「私の理解者」であるかどうか、医師に対する「感情」や「医師の人間性」、医師との「コミュニケーション」が検討される。
・フェイズ3
フェイズ2で検討された各要因(カテゴリー)によって「医師への信頼」が確立される段階である。
・フェイズ4
継続受診の最終判断が行われる。そこでは、「医師に任せる思い」や「物理的な条件」が検討され、最終的に「ここにずっと通い続けよう」と、継続受診の意思決定が行われる。
■受診先は熟考的思考と直観的思考のどちらで選ぶ?
(1)受診先選択の思考スタイル
患者は、受診する、受診しないを含めて受診先選択の意思決定を迫られる場面が常に存在している。患者の診療所選択の意思決定プロセスをより理解するために、GTAで得られた各フェイズのカテゴリーを、患者の熟考的思考と直観的思考の情報処理システムの視点から整理する。
一般的に人は物事を選択するにあたり、非合理的で直観的な思考と合理的で熟考的な思考の二系統の思考スタイルを、状況に応じて使い分けている(Croskerry, 2009)。そして、人が意思決定を行う時、リスクや不確実性を伴っている場合、必ずしも合理的な判断に基づいているとは限らない(尾沼ほか,2004)。Kahneman(2011)は、人の意思決定にはシステム1 とシステム2 の2つのシステムが作用することを明らかにしている。システム1 は直観的な思考であり自動的に高速で働く。
一方、システム2 は熟考的な思考であり、計算問題などの困難な知的活動に注意を割り当てる。通常は、直観的な思考により情報処理が行われているが、困難に遭遇すると熟考的な思考により適確な処理が行われる。複雑な認知操作は、最終的には熟練とスキルが習得され経験が進むにつれて熟考的思考から直観的思考に移行する。判断問題が発生した時には直ちに直観的な回答を提示し、熟考的思考はこれらの提案の質を監視することが指摘されている。
このような指摘は過去にも報告されており、Petty and Cacioppo(1986)は、人の意思決定には中央ルートと周辺ルートの2 つのルートがあることを示している。彼らによると、中央ルートとは、人は論理的であり、客観的、論理的な情報に基づいて合理的な意思決定を行うというものである。周辺ルートは、周辺の情報を手掛かりに直観的、感情的な意思決定や単純な推論に基づいて意思決定することを指摘している。
これら二系統の思考スタイルによる情報処理と各フェイズのカテゴリーの関係を示したものが(図2) である。患者は、慢性疾患の場合、通院による受診の時間経過に伴い経験値はあがり、熟考的思考から直観的思考に情報処理が移行することが考えられる。
・フェイズ1(受診前)では、熟考的思考で情報処理を行う
患者は、病名がわからず経験もないため、熟考的思考により情報処理を行い、初回受診先選択の意思決定を下すことが考えられる。
・フェイズ2(通院初期)では、熟考的思考で考えながらも、直観的思考で判断を行う
患者は、熟考的思考により、症状の改善など問題の解決を考慮する。しかし、医師の患者を理解する姿勢や医師の人間性を認知し始め、直観的思考による感情的な判断を行う。
・フェイズ3 では、直観的思考で情報処理を行う
患者は、直観的思考により医師への信頼を形成する。
・フェイズ4 では、熟考的思考で考えながらも、直観的思考で最終判断を行う
患者は、長期的な通院を考えて、熟考的思考により近さや利便性など物理的条件2 を検討するものの、最終的に直観的思考により医師に任せる思いを抱き、最終判断を下し継続受診を行う。